国崎定洞

国崎定洞：社会衛生学の先駆者、そして悲劇の革命家

国崎定洞（くにざき ていどう）は、1894年に熊本県で生まれ、社会衛生学の創始者として知られる一方で、共産主義者、社会主義者としても活動した人物です。その生涯は、学問への情熱と社会変革への強い意志、そして悲劇的な結末が入り混じったものでした。

生い立ちと学問への道

国崎は、医師であった父の影響を受け、幼少期を対馬で過ごしました。13歳で埼玉県川越町に移り、川越中学校、第一高等学校を経て東京帝国大学医学部を卒業。常に優秀な成績を収め、特に一高ではトップクラスの成績を誇っていました。大学時代には、義兄の支援を受けながら学業に励み、1919年に卒業後、東京帝大附属伝染病研究所に入所。その後、陸軍に入隊し軍医としても勤務しました。

社会主義への傾倒とドイツでの活動

軍務を終えた国崎は、東京帝大で助教授として衛生学教室に籍を置きます。しかし、学生時代から抱いていた社会科学への関心は、次第に社会主義へと傾倒。新人会に参加し、社会主義活動に身を投じました。1926年には、文部省の派遣によりドイツへ留学し、社会衛生学の研究に専念します。しかし、1928年にドイツ共産党に入党、1929年にはベルリンでドイツ共産党日本語部を結成し、その責任者となりました。彼は、東京帝大から初代社会衛生学講座教授の地位を約束されていたにも関わらず、大学を辞職し、革命運動に身を捧げる道を選びました。

ソ連への移住と悲劇的な最期

1932年、国崎は片山潜の勧めによりソビエト連邦へ移住。東方勤労者共産大学で学び、その後、外国労働者出版所の日本語部門で勤務しました。モスクワでは、日本人の社会主義運動関係者の支援や、日本共産党の活動にも従事。しかし、モスクワの日本共産党代表であった山本懸蔵により、「日本のスパイ」としてソ連当局に密告され、1937年8月に逮捕されました。そして、同年12月10日に銃殺刑に処され、その波乱に満ちた生涯を終えました。

名誉回復と家族のその後

国崎の死後、ソ連はスターリン批判後の1959年に彼の名誉を回復。彼の人生は、社会変革への強い意志を持ちながら、時代の波に翻弄された一人の革命家の悲劇として、後世に語り継がれることとなりました。国崎にはドイツ人の妻フリーダと娘タツコがいましたが、逮捕後に二人ともドイツへ強制送還されます。彼女たちの消息は一時不明となっていましたが、後に西ベルリンで生活していることが判明。娘のタツコは、父の死後、苦労を重ねながらも1980年に日本を訪れ、父を偲ぶ会に参加しました。

国崎定洞の遺産

国崎定洞は、社会衛生学の分野で先駆的な役割を果たしただけでなく、社会変革を追求した革命家としての側面も持ち合わせていました。彼の人生は、社会主義運動の光と影を映し出し、当時の複雑な時代背景を理解する上で重要な事例です。彼の名は、学問の分野だけでなく、歴史の中で決して忘れてはならない人物として、語り継がれていくでしょう。

国崎定洞の足跡をたどることは、社会主義運動の歴史だけでなく、激動の時代を生きた人々の姿を知る上で、重要な意味を持ちます。

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