国民ラジオ

国民ラジオとは

国民ラジオ（Volksempfänger）は、ナチス・ドイツにおいて一般国民を対象にしたプロパガンダの一環として開発され、大量生産されたラジオ受信機の総称です。これらの受信機は、低価格で手に入れることができるように設計されており、ナチス政権が発足した1933年以降、その普及が急速に進みました。

開発と普及の背景

ナチス党が政権を掌握した際、国民啓蒙・宣伝大臣であったヨーゼフ・ゲッベルスは、ラジオが持つ強力な宣伝力に注目しました。このことから、国営放送の設立と共に一般国民向けのプロパガンダ放送が始まりました。しかし、当時ドイツ国内でのラジオ受信機の普及は遅れており、庶民が手に入れられる価格ではありませんでした。こうした状況を改善するため、ゲッベルスは電気工学者オットー・グリーシンクに依頼し、低コストで大量生産可能な受信機の設計を行いました。

最初に開発されたのがVE-301型で、1933年にベルリンで開催された国際無線展示会で発表されました。このモデルはベークライト製のキャビネットを用いてコスト削減を図り、76ライヒスマルクという比較的手頃な価格で提供されました。それでも多くの家庭には依然として高価であったため、企業は分割払いを導入し、家庭でのラジオの普及が促進されました。その後、さらに安価なモデルDKE38型も登場し、一般市民の手に届くようになります。結果として、1939年にはドイツの世帯の約70%がラジオを所有するに至り、この普及率は当時の世界で最も高いものでした。

プロパガンダ放送との関係

ゲッベルスはラジオ放送を「現代的で重要な大衆感化の手段」とみなし、国民ラジオは意図的にローカル局のみを受信できるように設計されていました。そのため、BBCのような外国の放送は聞くことができませんでした。ナチスが重要視したのは自身のプロパガンダを広めることであり、国民は特定の情報のみを受信することを強いられていました。最終的には、外国放送の聴取は犯罪として扱われ、占領地域では規制が強化され、ラジオ受信機が押収されることもありました。

国民ラジオの文化的影響

国民ラジオはただの情報伝達の道具ではなく、大衆文化にも影響を与えました。ドイツ電子音楽の先駆者であるクラフトワークは、1975年に発表したアルバム「放射能」に国民ラジオDKE38型の画像を使用し、またWelle: Erdballというバンドも国民ラジオVE-301にちなんだ楽曲を制作しました。

複雑な跡

国民ラジオの影響力は計り知れなく、ナチス・ドイツの軍需大臣アルベルト・シュペーアはニュルンベルク裁判で「ヒトラーの演説が聴取されるのは国民の義務である」と語りましたが、その演説に飽きてしまった人々も多く、聞かれなくなったことを反映していました。1934年以降、ヒトラーの演説回数も減少し、彼の声が届く方法としてのラジオの役割は次第に変わっていったのです。

このように、国民ラジオは一方でナチスのプロパガンダの重要な要素であった一方、文化や社会の中での役割も持っていました。そのため、国民ラジオはドイツの歴史と文化の中で重要な位置を占めています。

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