国民保健サービス

イギリス国民保健サービス（NHS）詳解

1948年に設立されたイギリスの国民保健サービス（NHS）は、国民皆保険制度の象徴として知られています。本稿では、その歴史、運営体制、財政、受診システム、抱える課題などを多角的に解説します。

歴史

NHSの設立は、第二次世界大戦後の1942年に発表されたベヴァリッジ報告書に端を発します。同報告書は、包括的な社会保障制度の構築を提言しており、その中の重要な柱として国民皆保険が位置づけられました。1945年の総選挙で労働党が勝利すると、NHS設立は政策として実現。アナイリン・ベヴァン保健大臣のもと、1948年に正式に発足しました。当初は無料の医療提供を目指していましたが、財政問題から処方薬費用などの自己負担が導入されるようになりました。現在も地域差はありますが、自己負担は比較的少ない水準に留まっています。

運営体制

NHSはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4地域に分割され、それぞれが独自の運営体制を持っています。イングランドのNHSは単に「NHS」と呼ばれ、他の地域は「NHS Scotland」など地域名を含んだ名称を使用しています。北アイルランドは、NHSとは名称が違いますが、同様の理念に基づいて医療サービスを提供しています。NHSはヨーロッパ最大の雇用主であり、イギリス国民の生活に深く根付いています。

財政

NHSの財源は主に税収（約80％）と国民保険料（約18％）、利用者負担（約1.2％）で構成されています。2011年度のNHS予算は国家予算の25.2％を占め、そのほとんどが公費で賄われています。イギリス保健省から各地域に予算が配分され、さらに地域ごとの医療機関へと振り分けられる仕組みです。イングランドでは、Primary Care Trust（PCT）が医療機関との契約と予算配分を行っていました。ただし、一部のサービス（処方薬、歯科治療など）には自己負担が発生します。

受診システム

NHSを利用するには、まずGeneral Practitioner（GP：家庭医）に登録する必要があります。GPはプライマリ・ケアを担当し、必要に応じて専門医への紹介を行います。GPの選択は居住地近くの医療機関から選ぶことが一般的です。イングランドでは、NHS Choiceというオンラインサービスで、郵便番号から近くのGPを検索できます。

NHSナンバー

NHSナンバーは、NHSイングランド、NHSウェールズ、NHSマン島で利用される個別の登録番号です。電子カルテシステムなどで使用され、NHSサービス利用には必須となっています。

その他の制度

NHSには、英国国民医薬品集（BNF）や、処方できない薬剤のブラックリスト（National Health Service (General Medical Services Contracts) (Prescription of Drugs etc.) Regulations 2004）なども存在します。

NHSの課題

NHSは国民から高い評価を得ていますが、いくつかの課題も抱えています。地域差による医療サービスの格差、ITシステムの遅延、歯科医療の不足、医療事故のスキャンダルなどが挙げられます。また、待ち時間の長さや、私的医療への流出も問題視されています。

まとめ

NHSは、国民皆保険制度を成功させた事例として世界的に注目されていますが、財政問題や医療の質、公平性の確保など、解決すべき課題も多く抱えています。今後、少子高齢化や医療技術の進歩といった変化に対応しながら、その運営がどのように改善されていくのか注目されます。

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