国民防衛隊

国民防衛隊（PDF）

概要

国民防衛隊（こくみんぼうえいたい、People's Defence Force; PDF）は、ミャンマーにおける民主派勢力である国民統一政府（National Unity Government of Myanmar; NUG）の軍事組織です。日本語では人民防衛隊、あるいは人民防衛軍と訳されることもあります。2021年2月1日に発生した軍事クーデターに対抗するため、同年4月16日に設立されたNUGの軍事部門として、5月5日に正式に発足しました。これに対し、ミャンマー軍事政権は5月8日、PDFをテロ組織に指定しています。

設立経緯

2011年の民政移管後、ミャンマーではアウンサンスーチー率いる国民民主連盟（NLD）政権が誕生しましたが、軍部との関係は悪化しました。2020年の総選挙でNLDが大勝し、軍系の政党が敗北すると、軍は選挙に不正があったと主張。対話を求める軍の要求がNLD政権に黙殺されたことを契機に、2021年2月1日未明、ミャンマー軍はクーデターを決行し、アウンサンスーチー氏ら政権要人の多くを拘束しました。

このクーデターに対し、国民の間では大規模な抗議活動（市民不服従運動、CDMなど）が勃発しました。軍事政権は抗議デモを暴力的に鎮圧し、多数の市民が犠牲となりました。事態の悪化を受けて、NLDの議員らによって非合法に連邦議会代表委員会（CRPH）が結成され、後に国民統一政府（NUG）へと発展しました。当初は非暴力路線でしたが、軍による弾圧の激化と各地での自発的な武装抵抗の発生を受けて方針を転換。少数民族武装組織とも連携を深めながら、軍事政権に対抗する武装勢力の組織化を試みました。こうして、既に各地で自然発生的に結成されていた反軍事政権武装勢力をまとめ上げ、あるいは新たな結成を促す形で、NUGの軍事部門としてPDFが創設されたのです。

設立後の展開と規模

PDFの発足は、独立以来続くミャンマー内戦の様相を大きく変えました。それまで主に少数民族地域で展開されていた紛争が、内戦の影響をほとんど受けていなかったザガイン地方域やマグウェ地方域といった、ビルマ人が多数を占める地域にも拡大したのです。2021年9月7日には、NUG大統領代行が「自衛のための戦争」を宣言し、抵抗運動は本格化しました。

PDFの兵力は急速に拡大しました。2021年6月には8,000人規模と発表されていましたが、2022年11月には推計65,000人にまで増加したと報じられています。一部の少数民族武装組織とも連携しており、国内の抵抗勢力の中では最大規模の勢力に成長しています。

課題と活動

PDFは、設立当初から兵器や資金の不足、統一的な指揮系統の確立といった課題に直面しています。多くの部隊では、自家製や旧式の装備、あるいは武器を持たない兵士も少なくありません。一部の部隊は、装備や戦闘経験に勝る少数民族武装勢力の指揮下に入って活動しているほか、軍事政権側の民兵組織との間で激しい衝突が発生している地域もあります。

PDFの活動には、軍事政権軍との戦闘の他、軍関連施設の破壊やインフラ攻撃なども含まれます。しかし、その過程で公務員や教師、軍事政権支持者と見なされた人物に対する暗殺行為が報告されており、中には冤罪の可能性が指摘されるケースや、学校関係者が標的とされる事案も発生しています。

批判と問題点

PDFの活動、特に軍への協力者とされる人物やその家族に対する攻撃は、国内外から批判を集めています。一部の専門家や人権団体は、これらの行為が国際人道法に違反する可能性や、適正手続きを欠いた一方的な「密告者」認定による問題点を指摘しています。また、戦闘において民間人との区別が曖昧になる事例や、NUGの司法・規律体制の不備による法の支配が機能していない状況も懸念されています。

さらに、NUGの指揮下にない抵抗組織による犯罪行為（身代金目的の誘拐など）も報告されており、抵抗勢力全体に対する市民の信頼を損なう要因となっています。ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストや人権団体は、軍事政権への抵抗は正当であっても、手段としての暴力がエスカレートし、民間人や子供が犠牲になる状況は容認できないと強く批判しています。国連の特別報告者も、抵抗勢力やPDFによる性暴力を含む人権侵害の報告が増加している現状を指摘しており、被害者が声を上げにくい環境にあることや、加害者が裁かれていない現状が問題視されています。

組織構造と装備

PDFは、NUGの国防省の下に組織されています。最上位の機関として国民安全保障・防衛評議会が位置づけられています。組織構造は、当初5つの地方司令部に分割される計画でしたが、後に北部、中部、南部の3つに調整されました。各地方司令部のもとに旅団や大隊が編成されています。

また、村落防衛を目的とした民兵組織として人民防衛チーム（PDT）があり、主にザガインやマグウェ地方域で活動しています。PDTは装備や兵力に大きなばらつきがあります。

PDFの装備は多岐にわたります。自家製や旧式の小火器が中心でしたが、近年は鹵獲品や密輸品、少数民族武装組織からの供給により、性能の良い武器も増えています。ミャンマー軍の制式銃器（鹵獲品）や、AK-47、M16といった海外製のものが確認されています。資金不足を補うためか、3Dプリンターを用いた小火器の製造計画も進行しており、各地で自家製武器の製造が試みられています。

全体として、PDFはミャンマーの民主化運動における重要な武装抵抗勢力であり、軍事政権に対する主要な対抗勢力の一つですが、組織的な課題や活動に伴う人道上の問題も指摘されています。

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