国鉄8620形蒸気機関車

8620形蒸気機関車：大正時代の国産旅客機の詳細

8620形は、日本国有鉄道（国鉄）の前身である鉄道院が導入した、旅客列車牽引用のテンダー式蒸気機関車です。大正時代を代表する機関車として、その開発経緯、構造、改造、そして現在まで保存されている車両について詳しく解説します。

導入の経緯

明治末期、1911年から1913年にかけて、急行列車牽引用としてイギリス、アメリカ、プロイセンから輸入された8700形、8800形、8850形、8900形などの大型旅客機がありました。1912年6月には、これらの機関車を使用して新橋 - 下関間に特別急行列車が運行を開始しました。しかし、当時の輸送状況では、これらの機関車よりも若干小型で、急行列車も牽引可能な旅客機の需要が高かったため、九州、関西、東北、奥羽の各線で使用できる機体として、8800形などを参考に国産化技術の確立を目指し、8620形が導入されました。汎用性を重視し、将来的な地方線区への転用も考慮した設計となっています。

ボイラーについては、8800形などが80.5 km/hでの連続走行に対応した大型のものを搭載していましたが、8620形が運行を想定していた二級幹線の急行列車の連続走行速度は64.4 - 72.4 km/hであったため、ボイラー容量は8800形の8割程度で十分と判断され、小型化されました。一方、走行装置は動輪直径を8800形と同じ1600 mm、シリンダー直径も同形式と同じ470 mmとして、急行旅客用に使用できるようになっています。また、十分な粘着重量を確保し、線形の悪い勾配の多い二級幹線での運用に対応するため、動軸を3軸としました。当時の旅客用機は、先台車を2軸ボギー式とすることが一般的でしたが、ボイラーの小型化による重量減に対応するため、8620形では車軸配置を1Cとし、1軸の先輪と第1動輪を特殊な台車に装備することで、2軸先台車と同様の作用を持たせました。

設計と製造

大正期における機関車の設計は、主要寸法を定める概要設計は鉄道院・鉄道省で行われ、詳細設計は鉄道省またはメーカーで行われました。8620形はD50形などと共に、一部を鉄道省、一部をメーカーで行う方式が採用され、鉄道省の津田鋳雄と汽車製造会社の池村富三郎が詳細設計を担当しました。製造は当初、汽車製造会社が担当し、その後、日立製作所、川崎造船所、日本車輌製造、三菱造船が製造に参加し、1925年度までに計670両が製造されました。日立製作所笠戸工場と三菱造船神戸造船所は、第一次世界大戦終戦後の造船不況を契機に機関車製造に参入しました。

構造

ボイラーは、8800形よりも小型で、火格子面積、内径、煙管長が縮小されています。全伝熱面積は116.3 m3、過熱面積は27.6 m2、使用圧力は8800形と同じ12.7kgf/cm2です。ボイラー中心高は8850形と同じ2438 mmで、機関車重心高さは8850形や9600形を超える1557 mmです。火室の火格子面積/火室容積比は1.66で、石炭の燃焼効率が良いとされています。シュミット式の過熱器を装備し、過熱蒸気の温度を確保するため、全伝熱面積に占める過熱面積の割合を大きくしました。

走行装置は、車軸配置1C（モーガル）で、先輪と第1動輪を一体化した「省式心向キ台車」を採用し、曲線通過性能を向上させています。走行装置の基本的な寸法は8800形をベースとしており、動輪直径、動輪軸間距離、シリンダー径などが同一です。粘着牽引力は101.6 kNで、「絶対に空転しない機関車」とも言われ、勾配のあるローカル線や入換作業で力を発揮しました。

ブレーキと連結器

ブレーキ装置は、当初自動真空ブレーキと手ブレーキを装備していましたが、1919年に鉄道省が全車両に空気ブレーキを採用することを決定し、1921年から1931年上半期にかけて全車両が空気ブレーキ化されました。連結器は当初ねじ式連結器でしたが、北海道では並形自動連結器が標準であったため、1917年以降に北海道に配置された車両はこれを装備していました。1919年に鉄道省は全車両のねじ式連結器を交換する方針を決定し、1925年に自動連結器への交換が完了しました。

改造と変遷

8620形は長年にわたり運用されたため、様々な改造が実施されました。複式のピストン弁を単式に改造、灯火類をランプから電灯に交換、除煙板の追加装備などが行われました。また、ボイラーへの給水を加熱する給水加熱器の搭載、煙室延長改造、煙突の交換、炭水車の改造なども一部の機体で実施されました。

譲渡と保存

民間に譲渡された機体は羽幌炭礦鉄道の2両のみです。国鉄時代には数多くの8620形が各地で活躍しましたが、現在では静態保存されている車両も多く、その中でも8630号機は京都市の京都鉄道博物館で動態保存されています。

8620形が牽引する無限列車

2020年の大ヒット漫画『鬼滅の刃』に登場する無限列車は、8620形に類似した機関車が牽引しており、JR九州では8620形を使用した「SL鬼滅の刃」が運行され、話題となりました。

8620形は、大正時代から昭和にかけて日本の鉄道を支えた重要な機関車であり、その姿は現在も各地で保存され、鉄道ファンに愛されています。

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