国鉄HD53形蒸気機関車

国鉄HD53形蒸気機関車：幻の弾丸列車計画が生んだ巨大機関車

国鉄HD53形蒸気機関車は、第二次世界大戦中に計画された弾丸列車計画の一環として、鉄道省が旅客用に設計した蒸気機関車です。もし完成していれば、世界最大級の蒸気機関車となっていた可能性がありましたが、戦局の悪化により計画は中断され、設計段階で終わりました。

構造と設計

HD53形は、4-8-4のノーザン型と呼ばれる車軸配置を持つ蒸気機関車として設計されました。これは、当時日本が勢力下においていた地域に現存する資料の中では、2形式しかない貴重なものでした。動輪の直径は2.3メートルと、欧米で使用されていたものと同等の巨大なものでした。弾丸列車路線は標準軌（1435ミリメートル）で建設される予定だったため、HD53形もそれに合わせて設計され、最高速度は時速200キロメートルに設定されました。

しかし、当時の日本の工業技術力で、本当にこの性能を備えた蒸気機関車を製造できたのか疑問視する研究者もいます。完成したとしても、安定した走行は困難だっただろうという意見もあります。

計画の不確実性

鉄道関係者との交流が深かった臼井茂信も、HD53形を含む弾丸列車計画には多くの未決定事項があり、机上の空論に過ぎなかったと指摘しています。埼玉県さいたま市の鉄道博物館に所蔵されているHD53形の形式図を見ても、予定値すら書き込まれていない空欄が多く、シリンダー数や弁装置の種類といった基本的な情報すら記載されていません。基本的な事項が定まらないまま弾丸列車計画そのものが中止になったのか、あるいは単なる検討案に過ぎなかったのかは不明です。

鉄道博物館での展示

鉄道博物館には、HD53形の形式図とともに、同じく弾丸列車用の機関車として計画されたHC51形蒸気機関車やHEH50形電気機関車の図面も所蔵されています。これらの図面は、幻に終わった弾丸列車計画の一端を今に伝える貴重な資料となっています。

参考文献

JTBキャンブックス『幻の国鉄車両』2007年11月、JTBパブリッシング刊
齋藤晃『蒸気機関車の技術史(改訂増補版)　(交通ブックス117)』成山堂書店、2018年。ISBN 978-4425761623。
高木宏之『国鉄蒸気機関車史』ネコ・パブリッシング 2015 ISBN 978-4-7770-5379-7
『弾丸列車』（前間孝則、実業之日本社） ISBN 4408340545
『弾丸列車計画 - 東海道新幹線につなぐ革新の構想と技術 - (交通ブックス122)』 （地田信也、成山堂書店） ISBN 978-4425762118
「第7章.東京下関間新幹線 第8節.車両」『鉄道技術発達史 第1篇 (総説)』1958年、151-154頁。doi:10.11501/1371989。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1371989/182。

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