国際原子力事象評価尺度

国際原子力事象評価尺度（INES）とは

国際原子力事象評価尺度（INES：International Nuclear and Radiological Event Scale）は、原子力事故や故障の深刻度を国際的に共通の基準で評価するための尺度です。国際原子力機関（IAEA）と経済協力開発機構原子力機関（OECD/NEA）によって策定され、1990年から試験運用が開始、1992年に各国へ正式採用が勧告されました。日本でも1992年8月に導入されています。

INESは、原子力施設の事故や故障の重大さを、一般の人々にも理解しやすいようにレベル分けして示すことを目的としています。評価は、放射性物質の放出量、施設内の放射線量、安全設備の故障、深層防護の劣化など、様々な要素を考慮して行われます。

INESのレベル

INESは、レベル0からレベル7までの8段階で構成されています。

レベル0：逸脱
安全上重要ではない事象で、安全目標からの逸脱や、原子力施設の通常運転からの逸脱などが発生した場合に適用されます。
レベル1：異常
軽微な異常で、安全上の影響がほとんどない、またはわずかである事象に適用されます。
レベル2：故障
施設の安全運用上の逸脱や、軽微な放射線影響などが発生した事象に適用されます。
レベル3：重大な故障
施設に重大な影響を与える故障や、少量の放射性物質の放出が発生した事象に適用されます。
レベル4：施設外への影響を伴わない事故
施設内で重大な事故が発生し、放射性物質の放出はないものの、施設の運転に重大な影響が生じた場合に適用されます。
レベル5：施設外へのリスクを伴う事故
施設外への放射性物質の放出があり、その影響が限定的な場合に適用されます。
レベル6：重大な事故
施設外への放射性物質の放出が顕著で、広範囲に影響が及ぶ可能性がある場合に適用されます。
レベル7：重大な事故
広範囲に深刻な影響を及ぼす重大な事故で、大規模な放射性物質の放出を伴う場合に適用されます。

放射性物質放出量の評価

INESでは、放射性物質の放出量を評価する際に、各核種の放射能の等価性を考慮します。ヨウ素131を基準とし、他の核種については、ヨウ素換算倍率係数を用いて、放出量を換算します。

総線量因子は、地表からの線量係数と吸引による線量係数を合わせて算出されます。

総線量因子（Dtot/(Q･X)）
Dtot/(Q･X) = Dinh･breathing rate + Vg･Dgnd
Dinh：吸引線量因子
breathing rate：呼吸率
Vg：堆積速度
Dgnd：地表からの線量係数

事故事例における放出量の評価

チェルノブイリ原子力発電所事故や福島第一原子力発電所事故では、ヨウ素131とセシウム137の放出量がINES評価の際に比較されます。これらの核種は、揮発性で長寿命であるため、環境への影響が懸念されます。例えば、チェルノブイリ原発事故では、ヨウ素131が1800ペタベクレル、セシウム137がヨウ素換算で3400ペタベクレル、合計5200ペタベクレルの放射能が放出されたとされています。

注意点

京都大学の門信一郎准教授（当時東京大学）は、過去のINESユーザーマニュアルに掲載されていたセシウム134の増倍係数に誤りがあることを指摘しました。その結果、IAEAによって係数が修正され、現在のマニュアルでは正しい値が用いられています。

まとめ

INESは、原子力事故や故障の深刻度を客観的に評価するための重要な指標です。国際的な共通基準として広く利用されており、事故の教訓を共有し、今後の原子力安全対策に役立てられています。

用語解説

シーベルト (Sv)：放射線が人体に与える影響を表す単位
ベクレル (Bq)：放射性物質の量を表す単位
深層防護：原子力施設における多重の安全対策

参考資料

文部科学省（科学技術・学術政策局原子力安全課）の公文書
en:International_Nuclear_Event_Scale

関連項目

被曝
原子力事故

外部リンク

事故報告制度とINES評価（原子力規制委員会）pdf Internet Archive (May 01 2015)
"INES: The International Nuclear and Radiological Event Scale User's Manual 2008 Edition" (英語、中国語、フランス語、ロシア語、スペイン語版がある。英語版は2013年にCs-134の係数を一部更新)　国際原子力事象評価尺度を策定するに当たってのマニュアル
"INES: The International Nuclear and Radiological Event Scale User's Manual 2008 Edition" (日本語訳版pdf、原子力規制委員会。2009年版のまま)

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