国際海洋法

海洋法の概要

海洋法（国際海洋法）は、領海の幅、大陸棚の資源利用、公海の利用など、海洋に関する国際法規の総称です。その歴史は古く、植民地主義時代の「閉鎖された海」という概念から、グロティウスの「海洋自由論」へと発展しました。

1958年のジュネーブ海洋法条約を経て、1982年には国連海洋法条約が成立し、現在の主要な海洋法となっています。この条約は、深海底の地位に関する先進国と途上国の対立により発効が遅れていましたが、1994年の「国連海洋法条約第11部実施協定」によって発効しました。

海洋法の制度

領海

国連海洋法条約では、沿岸国は12海里を超えない範囲で領海を定めることができるとされています。領海は沿岸国の主権が及ぶ領域ですが、他国の船舶の無害通航権は保障されています。沿岸国の基線については、直線基線の方式が採用されています。

大陸棚

大陸棚制度は、1945年の米国による「トルーマン宣言」に由来します。この宣言により、沿岸国は自国の沿岸に隣接する海洋における資源開発や保護に関する権利を主張できるようになりました。国連海洋法条約では、大陸棚は沿岸国の主権下にあると定められており、沿岸国は天然資源の開発に関する主権的権利を有しています。

排他的経済水域（EEZ）

排他的経済水域（EEZ）は、沿岸国の基線から200海里まで認められており、沿岸国は海底上部水域、海底、その下の天然資源の開発や海洋環境の保護に関する管轄権を有します。大陸棚の制度と重なる部分があるため、近年では両者の境界を同時に画定することが一般的です。

公海

公海は、「公海自由の原則」に基づき、すべての国が自由に利用できます。ただし、生物資源の保存のために必要な措置を講じ、他国と協力する義務があります。近年では、沿岸国が排他的経済水域を越えて、自国に接する公海における一方的な漁業制限措置や環境保護措置を執ることが見られます。

深海底

深海底は、南極、宇宙とともに、「人類の共同遺産」と規定されており、深海底の自由な開発を主張する先進国と、国際機構による管理を主張する途上国の対立が続いていました。しかし、1994年の「第11部実施協定」により、先進国の技術移転を削減する形で合意が成立しました。

海洋法の紛争解決

国際司法裁判所と国際海洋法裁判所

海洋法に関する紛争解決の手段としては、国際司法裁判所（ICJ）と国際海洋法裁判所（ITLOS）があります。国際海洋法裁判所は、国連海洋法条約に基づき1996年に設立されました。

具体的な紛争事例

みなみまぐろ事件：日本が国際裁判に登場したことで話題になりました。仲裁裁判所は、国連海洋法条約の下の義務的管轄権がないと判示しました。
豊進丸号事件と富丸号事件：日本の漁船がロシア当局に拿捕された事件です。国際海洋法裁判所は、豊進丸号については日本の主張を一部認めましたが、富丸号についてはロシアの決定を支持しました。
南極海捕鯨事件：オーストラリアが日本の南極海における捕鯨を国際法違反として訴えた事件です。国際司法裁判所は、日本の調査捕鯨計画を国際捕鯨取締条約に違反すると判断しました。

参考文献

山本草二『海洋法』（三省堂、1992年）
池島大策『南極条約体制と国際法―領土、資源、環境をめぐる利害の調整』（慶應義塾大学出版会、2000年）
桑原輝路『海洋国際法入門』（信山社、2002年）
TANAKA(Yoshifumi), The International Law of the Sea, Cambridge, Cambridge University Press, 2012
TANAKA(Yoshifumi), Predictability and Flexibility of the Law of Maritime Delimitation, Oxford, Hart, 2006
DAUDET(Yves) et al.(dir.), La mer et son droit. Mélanges offerts à Laurent Lucchini et Jean-Pierre Quéneudec, Paris, Pedone, 2003
ANDO(Nisuke)/McWHINNEY(Edward)/WOLFRUM(Rüdiger)(eds.), Liber amicorum judge Shigeru Oda, 2vols, The Hague, Kluwer Law International, 2002
* LUCCHINI(Laurent)/VŒLCKEL(Michel), Droit de la mer, t.I, La mer et son droit, Paris, Pedone, 1990; Droit de la mer, t.II, Délimitation, navigation et pêche, 2vols, Paris, Pedone, 1996

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