土 (小説)

『土』の概要

『土』（つち）は、著者長塚節による長編小説で、彼の故郷である茨城県の鬼怒川沿いの農村を背景にしています。物語は、そこに住む貧しい農民一家の日常生活を、自然や地域の風俗、伝統行事などと共に細かく描写しています。この作品は、農民文学としての重要な位置づけをされており、長塚にとって唯一の長編作です。

発表経緯

長塚の『土』は、1906年から1910年にかけて東京朝日新聞で連載され、夏目漱石の推奨を受けて注目を集めました。連載は1910年の6月から11月まで行われ、1912年には春陽堂から書籍として刊行されました。その際、漱石が書いた序文『「土」に就て』も掲載され、作品の重要性を後押ししています。特にその写生文体が評価され、多くの読者に支持されています。

映画化と評価

1939年に内田吐夢監督によって映画化された『土』は、4月13日に公開されました。日活が製作したこの映画は、142分のモノクロ映画で、内田監督の戦前の代表作の一つと考えられています。映画は、製作に2年の時間をかけ、リアリズムの徹底した描写を追求しました。地味なテーマにもかかわらず、上映の開催地でのヒットを記録し、文部省からも推薦されました。さらに、第1回文部大臣賞や第16回キネマ旬報ベスト・テン第1位を獲得するなど、その質の高さが称賛されています。

制作の裏側

本作の企画は1936年に始まり、その制作は多摩川撮影所で行われましたが、四季の変化を描くための長期間の撮影が必須でした。そのため、日活本社は製作の継続を懸念し、製作中止の申し出を行いました。しかし、撮影所側はこの要請を受け入れず、裏で撮影を続けました。こうした事情の中、内田監督は他の作品と並行して製作を進め、最終的には立派な作品として完成しました。

公開後の流れ

1939年の春に完成した『土』は、4月13日に帝都座で公開され、見事な成功を収めました。それに反して、当初は興行的リスクを抱えていた制作サイドは、想定外のヒットに確信を持ちました。作品は公開後も評価を維持し続け、1959年にはキネマ旬報が選定する「日本映画60年を代表する最高作品ベスト・テン」で第4位に選ばれるなど、その後の評価も続いています。

現在の状況

映画『土』のオリジナルフィルムは長い間現存しないと考えられていましたが、1968年に東ドイツの国立映画保存所で短縮版が発見されました。その後、1999年には冒頭部分を含む別の版も見つかり、現在東京国立近代美術館フィルムセンターではいくつかの版が確認されています。

舞台とラジオドラマ

この作品は、1937年に新築地劇団によって舞台化され、初演が築地小劇場で行われました。また、同年にはNHKラジオによってラジオドラマも放送され、多くの人に親しまれる作品となりました。『土』は、さまざまな形で日本の文化に影響を与えてきた重要な作品であり、今後もその評価は続いていくでしょう。

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