土岐村路

土岐村路（ときむら みち）は、文化3年6月6日（1806年7月21日）に生まれ、安政5年8月17日（1858年9月23日）に没した江戸時代後期の女性です。彼女は、著名な戯作者である曲亭馬琴の筆記助手として、その晩年の創作活動を支えたことで知られています。

紀州藩家老三浦長門守の医師であった土岐村元立の次女として、神田佐久間町で生まれた路は、幼名を鉄と名付けられました。幼少期には手習いや三絃を習いましたが、三絃を好まず、舞踊を学ぶようになりました。その後、姉とともに松平忠誨邸に仕え、さらに江戸城にも勤めました。21歳で実家に戻り、文政10年（1827年）、22歳の時に曲亭馬琴の嫡子である滝沢宗伯興継と結婚し、みちと改名しました。彼女は宗伯との間に、嫡男太郎興邦を含む二女をもうけました。

しかし、天保6年（1835年）に夫の宗伯が亡くなり、翌7年（1836年）には神田信濃町で馬琴夫婦と同居することになりました。天保10年（1839年）頃から、馬琴の眼疾が進行し、遂には失明に至りました。この時、路は馬琴の口述筆記を担当し、時には「琴童」の名で代作も行いました。彼女の助力なくしては完成しなかった作品として、『南総里見八犬伝』の後半部分や『玉石童子訓』などが挙げられます。路は、馬琴独特の難しい漢字の書き方やふりがなを習得し、筆記者としての役割を全うしました。

嘉永元年（1848年）に馬琴が亡くなると、翌年には嫡男の太郎も亡くなりました。嘉永元年、馬琴が亡くなる直前から路は自ら日記を記し始め、その日記は後に木村三四吾によって『路女日記』として刊行されました。路が筆記者として直面した苦難は、明治時代にはすでに広く知られるようになり、彼女は貞女として称賛されました。その姿は、画家鏑木清方の画材ともなり、また、馬琴を描く際には欠かせない人物として認識されています。彼女の戒名は操誉順節路霜大姉です。

彼女の名称については、森田誠吾の論文「滝沢路女のこと」以来、「滝沢路」と表記されることが一般的でしたが、江戸時代には夫婦別姓が一般的であったため、「土岐村路」と呼ぶのがより正確であると考えられています。

参考文献

麻生磯次『滝沢馬琴』吉川弘文館、1959
高田衛『滝沢馬琴』ミネルヴァ書房、2006
森田誠吾「滝沢路女のこと」『江戸の明け暮れ』新潮社、1992
『路女日記』木村三四吾、八木書店、1994

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