土漠の花

『土漠の花』（どばくのはな）は、月村了衛によって執筆された小説であり、2014年2月号から2014年8月号にかけて雑誌『papyrus』に連載された「ソマリアの血、土漠の花」を単行本化した際に改題・加筆・修正が行われ、2014年9月に幻冬舎から刊行されました。

この作品は、その年の文学界で高い評価を受け、第68回日本推理作家協会賞（長編および連作短編集部門）を受賞しました。さらに、第12回本屋大賞では5位にランクインし、2014年度の週刊文春ミステリーベスト10国内部門では15位、2015年度のこのミステリーがすごい!国内編では6位に選ばれるなど、ミステリーファンから絶大な支持を得ています。

また、『ヤングキングアワーズ』（少年画報社）にて、2021年2月号からフクダイクミ作画によるコミカライズの連載も開始され、小説版とは異なる視点からも物語を楽しむことができます。

あらすじ

物語は、陸上自衛隊第1空挺団の精鋭12名が、ソマリアの国境付近で墜落したヘリコプターの捜索救助活動中に始まる。彼らが野営していた場所に、ビヨマール・カダン氏族の長の娘であるアスキラ・エミルが助けを求めて駆け込んできた。彼女によると、以前から対立していたワーズデーン氏族が、ビヨマール・カダン氏族を皆殺しにしようと街を襲撃したという。捜索援助隊隊長の吉松勘太郎3尉は、アスキラを避難民として保護することを約束するが、直後にワーズデーン氏族の兵士たちの襲撃を受け、吉松隊長を含む4名が命を落としてしまう。残りの自衛隊員も捕虜となるが、たまたま小銃を持って用を足していた市ノ瀬浩太1士が反撃し、自衛隊員は1名を失いつつも脱出に成功する。

生き残ったのは、友永曹長、新開曹長、朝比奈1曹、由利1曹、津久田2曹、梶谷士長、市ノ瀬1士、そしてアスキラの8名となる。彼らは、ワーズデーン氏族のトラックと武器を奪い、ジブチにある自衛隊の活動拠点を目指すことになる。街道での待ち伏せを避けるため、アスキラの案内で抜け道を通るが、突然の大雨によって大河が出現。ロープを使って渡河を試みるも、ワーズデーン氏族の兵士に追いつかれてしまう。市ノ瀬1士は、ナイフを持った兵士から新開曹長を庇い、相討ちとなって命を落とす。

ソマリ語を理解する新開曹長は、ワーズデーン氏族の兵士が「石油」という言葉を口にしたことをアスキラに問い詰める。その結果、ビヨマール・カダン氏族の領地に膨大な石油が埋蔵されている事実が判明。ワーズデーン氏族は、石油利権を独占するために、ビヨマール・カダン氏族を根絶やしにしようとしていた。

渡河後は徒歩での移動を余儀なくされるが、自衛隊一行は遊牧民の村に辿り着き、温かい歓迎を受ける。そこで、放置された2台の車両を発見した整備士の梶谷士長が、それらの部品を組み合わせて軽トラックを修理する。自衛隊一行は軽トラックで出発するが、新開曹長が村の少年に日の丸の徽章を渡したことを思い出し、村がワーズデーン氏族の攻撃を受ける危険性があるため、引き返す。しかし、村は既にワーズデーン氏族の兵士たちに襲撃されていた。

村を守るために自衛隊一行は反撃を開始し、兵士たちを撃退するも、津久田2曹が負傷し、新開曹長も銃撃によって倒れる。活動拠点まであと20キロという地点で燃料が尽き、再び徒歩での移動になる。廃墟となった街に到着した一行は、ガソリンの空の中古バイクを発見。そこにワーズデーン氏族の追撃隊が襲撃してくるが、自衛隊一行はこれを撃退する。しかし、追撃隊の1人が「ワーズデーン本隊とアル・シャバブの精鋭部隊が間もなく到着する」と告げたため、自衛隊一行はこの街を要塞化し、迎え撃つことになる。友永曹長らは対人地雷を使い、津久田2曹は狙撃で援護、朝比奈1曹は合気道でワーズデーン氏族のリーダーであるアブディワリを倒し、由利1曹はバイクで特攻を仕掛け、アル・シャバブの指導者であるハサン・ダヒル・ギュバンと相討ちになる。由利1曹を援護した梶谷士長も自爆する。

指揮系統が乱れた隙をついて、生存した4人は街を脱出。海上自衛隊の哨戒機が現れ、敵の追撃が止まる。生き残った4人は、活動拠点に無事到着する。その後、アメリカのCIAがワーズデーン氏族を密かに支援していたことが判明し、救助が遅れた事実が明らかになる。友永曹長は、アメリカに渡るアスキラと米軍基地の滑走路で別れを告げる。

登場人物

吉松勘太郎3尉：捜索援助隊の隊長。
友永芳彦曹長：31歳。2士からの叩き上げ。両親を事故で亡くしている。
新開譲曹長：31歳。有能だが冷酷で差別的。ソマリ語が堪能。
朝比奈満雄1曹：37歳。既婚者。合気道の達人。
由利和馬1曹：警務隊出身。元暴走族。
津久田宗一2曹：既婚者。小心者だが射撃の名手。
梶谷伸次郎士長：25歳。腕利きの整備士。
市ノ瀬浩太1士：23歳。元水泳選手。
戸川1士、佐々木1士：銃殺される。
原田琢郎1士：首を落とされる。
徳本1曹：なぶり殺しに遭う。
アスキラ・エミル：ビヨマール・カダン氏族の長の娘。
アブディワリ：ワーズデーン氏族のリーダー。
ハサン・ダヒル・ギュバン：アル・シャバブの指導者。

用語

スルタン：氏族長。
ハムシン：砂塵嵐を伴う高温風のこと。
* アル・シャバブ：ソマリアのイスラーム勢力。

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