土田御前

土田御前：織田信長の母と謎に包まれた生涯

土田御前（？～文禄3年1月7日（1594年2月26日））は、織田信秀の継室であり、織田信長、信行、秀孝、信包、市（浅井長政、のち柴田勝家正室）、犬（佐治信方、のち細川昭元正室）の生母として知られています。しかし、その生涯は謎に満ちており、実名や出自については諸説が飛び交っています。

謎に包まれた出自

一般的には、佐々木六角氏後裔の土田政久の娘とされていますが、この説を裏付ける当時の一次史料は存在しません。この説が有力視されるようになったのは、比較的後世の、土田氏縁者である生駒氏（信雄系統）の史料が登場してからで、信憑性については疑問が残ります。

土田御前という呼び名自体、美濃可児郡の土田氏であれば「どた」、尾張清洲の土田氏であれば「つちだ」と発音に違いがあり、出自を示唆するものではありません。他にも、土田氏が近江六角氏の庶流であるという説や、旗本であったという説など、様々な説が存在します。

『津島大橋記』や『干城録』といった史料では、信秀の正室、信長の生母は小嶋信房の娘とされており、土田御前が信秀の継室であったのか、もしくは土田御前という人物自体が小嶋信房の娘という可能性も示唆されています。信秀の娘が大橋重長に嫁いだ際、小嶋信房の養女として嫁いでいたという記述からも、小嶋信房と信秀の深い関係性が伺えます。また、信孝と小嶋兵部少輔の関係についても、小嶋信房との関連性が指摘されています。さらに、『美濃国諸旧記』では、信長の生母を六角高頼の娘としているなど、信長生母の出自についても複数の説があり、土田御前の出自の謎をより複雑にしています。

信長家臣団との関わりと波乱の生涯

夫・信秀の死後、次男・信勝と共に末森城に住んでいた土田御前は、信長と信勝の家督争いの際には、信勝の赦免を信長に願い出て、一度は成功させました。しかし、後に信勝が再び信長への反逆を企てたため、信長によって誅殺されてしまいます。

信勝の死後は、信長や市と共に暮らしており、幼い信長と市の子供たちの面倒を見ていたと伝えられています。本能寺の変で信長と孫の信忠が自害した後も、孫の信雄の庇護を受け、「大方殿様」と尊称され、640貫文の化粧料を与えられていました。天正18年（1590年）に信雄が改易されると、伊勢国安濃津の信包のもとに引き取られ、文禄3年（1594年）正月7日に同地で亡くなりました。墓所は三重県津市の塔世山四天王寺です。

現代における土田御前

土田御前は、その謎めいた出自や信長との関係、そして波乱に満ちた生涯から、多くの歴史小説やドラマの題材として取り上げられています。NHK大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』（1992年）、『軍師官兵衛』（2014年）、『麒麟がくる』（2020年）、そして『信長のスマホ』（2023年）など、様々な作品で描かれ、現代においても彼女への関心は高いと言えるでしょう。

土田御前の生涯は、多くの謎を残したまま歴史に幕を閉じましたが、織田信長という偉大な人物を世に送り出した母として、そして信長家臣団と深く関わった女性として、日本の歴史において重要な存在であることは間違いありません。彼女に関する新たな史料の発掘や研究の進展が、今後の更なる理解につながることが期待されます。

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