地のはてから

乃南アサ氏による長編小説『地のはてから』は、2010年11月17日に講談社から単行本として刊行されました。この作品は、講談社創業100周年を記念して書き下ろされた力作であり、その装幀は川上成夫氏が手がけ、装画には東山魁夷氏の絵画『緑の窓』が採用されています。

発表翌年の2011年には、井上荒野氏の小説『そこへ行くな』と共に、第6回中央公論文芸賞を受賞するという高い評価を得ました。その後、2013年3月15日には講談社文庫として文庫版も刊行され、より多くの読者に届けられています。

本作の執筆にあたり、著者の乃南氏は、物語の舞台となる北海道、特に知床半島を何度も訪れ、入念な取材を行ったと言われています。知床半島塾運営委員長である河面孝子氏の証言によると、乃南氏は、開拓時代に発生した大規模なバッタの被害や、その土地に根ざしたアイヌ文化などについて、専門家や関係者への聞き取りや資料調査を徹底的に行い、作品世界に深いリアリティを与えるための努力を惜しまなかったとされています。

物語は、大正時代の初め、福島県の農家の四男として生まれた登野原作四郎を軸に展開します。作四郎は妻のつねとの間に娘とわをもうけますが、株取引での大きな損失によって多額の借金を背負うことになります。娘とわがわずか2歳の時、作四郎とその家族は、借金取りから逃れるように夜逃げを決行し、遠く離れた北海道、知床半島のイワウベツ（現在の斜里町にあたる地域）へ開拓移民として移住します。

彼らが足を踏み入れたイワウベツは、クマザサが密生し、鬱蒼とした未開の原野でした。家族は土地を切り開き、畑を耕し農作物の栽培に挑みますが、苦労して育てた作物は、周期的に大量発生するバッタの大群によって食い荒らされてしまいます。イワウベツでの生活は、想像を絶する困難の連続でした。やがて、作四郎は家族を養うため、近くの漁村である宇登呂の漁港へ出稼ぎに行きますが、そこで酒に溺れ、海に転落して命を落としてしまうという悲劇に見舞われます。残された妻つねと娘とわは、さらに厳しい現実の中で生き抜いていかなくてはならなくなります。

本作に登場する主な人物は以下の通りです。

登野原作四郎: 一家の行く末を左右する農家の四男。
つね: 作四郎の妻。過酷な運命に立ち向かう。
* とわ: 作四郎とつねの娘。物語の中心として成長していく。

作品は様々な視点から評価されています。ライターの池田千波留氏は、本作が北海道開拓の歴史、第二次世界大戦の影響、そしてアイヌ民族が抱える問題など、多岐にわたる社会的な背景を含みながら、ままならない人生の中でも力強く生き続けることの意味や、「とにかく生きることが大切だ」という作者の熱いメッセージが強く伝わってくる点を高く評価しています。また、上士幌町の公式ウェブページに掲載された書評では、特に女性たちの持つ揺るぎない強さが強調されている一方で、男性キャラクターは軟弱で非常に脆く描かれている、という指摘がなされています。これらの評価は、『地のはてから』が、逆境の中での人間の葛藤や生命力の輝きを鮮やかに描き出した作品であることを示しています。

『地のはてから』は、過酷な自然環境と社会の波に翻弄されながらも、必死に生き抜こうとする人々の姿を、力強くそして情感豊かに描いた作品であり、特に困難に立ち向かう女性たちの姿を通して、「生きる」ことの根源的な問いを投げかけます。それは、現代を生きる私たちにも深く響くメッセージと言えるでしょう。

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