地獄の回想

キッス『地獄の回想』(1983) - 素顔のKISS、成功と軋轢の狭間で

『地獄の回想』は、1983年にキッスが発表した11枚目のスタジオアルバムです。前作『暗黒の神話』で確立したハードなサウンドを基盤としつつ、バンドがトレードマークであったメイクを落とし、素顔を初めて公開した作品として、大きな話題を呼びました。

アンマスクの衝撃と宣伝効果

1980年の『仮面の正体』以来となるゴールドディスクを獲得し、1990年にはプラチナ認定も受けるなど、商業的な成功を収めました。ポール・スタンレーは、インタビューで「人々は耳よりも目で聴くようになった」と語り、『地獄の回想』が売れたのは、アンマスクによる宣伝効果が大きかったと分析しています。

ヴィニー・ヴィンセントとの軋轢

しかし、本作の制作・プロモーション期間中、ギタリストのヴィニー・ヴィンセントとの関係が悪化。ヴィンセントはアルバムのジャケットに初めて登場したものの、バンド内での役割や報酬を巡る争いが絶えませんでした。ヴィンセントは、法的には正式なメンバーではなく、契約交渉は難航。ソロ演奏を巡っても他のメンバーとの間に溝が生まれ、ツアー中にヴィンセントがステージを降りる（あるいは解雇される）事態も発生しました。結局、ヴィンセントは本作のワールドツアー終了後にバンドを脱退（解雇）することになります。

音楽的な評価と影響

Kerrang!誌の1983年ベスト・ハード・ロック・アルバムで3位に選ばれるなど、音楽的な評価も高く、その後のキッスの「素顔時代」の幕開けを告げる作品となりました。

しかし、メンバー間の不協和音は、バンドの安定を揺るがす大きな要因となります。「オール・ヘルズ・ブレイキン・ルーズ」は、メンバー全員が作詞作曲に関わった数少ない楽曲の一つですが、この時期のバンドの状態を反映しているかのような、緊迫感の漂う作品となっています。

収録曲

(収録曲リストは省略)

まとめ

『地獄の回想』は、キッスが新たな方向性を打ち出した重要な作品であると同時に、バンド内の不協和音が表面化した時期の作品でもあります。アンマスクという大きな変化の裏で、メンバー間の確執が深まり、バンドは再び困難な時期を迎えることとなります。しかし、このアルバムは、キッスが新たなファンを獲得し、その後の活動を支える原動力となったことは間違いありません。

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