地震発生物理学

地震発生物理学とは

地震発生物理学、または地震物理学は、地震を単なる自然現象としてではなく、物理学的な観点から詳細に分析し、その発生メカニズムを解明しようとする学問分野です。地震学の一分野であり、特に地震の発生に関わる物理法則の確立を目指しています。

研究テーマ

地震発生物理学では、以下の様なテーマを中心に研究が行われています。

岩石破壊過程の研究: 高温高圧の地中環境を想定し、岩石の特性から破壊過程を研究します。これにより、断層の形成や破壊、つまり地震がどのように発生するのかを明らかにしようとしています。
地震波と地質構造: 地震波の伝播や地質構造を研究し、地中や地表でどのような地震動が生じるのか、また地震動の特性と被害状況の関係を明らかにします。
震源モデルと地殻モデルの開発: 上記の研究成果を基に、より精度が高く定量的な震源モデルや地殻モデルを開発します。

歴史

近代地震学は19世紀末に始まり、地震のメカニズム解明が試みられてきました。1960年代後半から1980年代にかけては、プレートテクトニクス理論の進展を背景に、ダブル・カップルによる震源モデルが提唱されました。しかし、これらの運動学的モデルは、破壊速度や破壊範囲を予め設定する必要があり、これらの値を決定する物理法則の解明が課題となりました。

1980年代以降、岩石破壊実験などを通して、実際のせん断破壊を定式化する試みが始まりました。これが現在の地震発生物理学の起源です。実験の結果、地中では岩石同士が摩擦によって「固着」し、それが大規模に滑ることで断層の動的破壊、すなわち地震が発生することが分かりました。従来はモール・クーロンの破壊基準が用いられていましたが、これは粘性の低い物体にしか適用できず、実際の岩石の破壊現象を説明できませんでした。

これに対して、グリフィスは岩石内の微小な亀裂（クラック）の成長とエネルギー分布に着目し、新たな破壊基準（グリフィスの破壊基準）を提唱しました。これにより、モデル計算が可能となり、研究は急速に進展しました。現在では、ひずみの蓄積から破壊核の形成、そして動的破壊（地震）に至る一連の過程を記述することも可能になりつつあります。

今後の展望

地震被害が頻発する状況下で、地震発生物理学の知見を地震予知に応用する重要性が高まっています。地震発生のメカニズムをより深く理解し、より精度の高い予測につなげることが今後の課題です。

関連事項

静力学
動力学
モデル (自然科学)

出典

『地震発生物理学』東京大学出版会、2002年9月。ISBN 978-4130607360
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