坂上のカツラ

富山県南砺市利賀村の坂上地区に、ひときわ目を引くカツラの巨木が静かに根を張っています。この木は「坂上のカツラ（さかうえのかつら）」として知られ、その威厳ある姿は地域の象徴ともなっています。

坂上のカツラは、旧利賀村域に生育するカツラの中で、樹齢、そして規模の双方において最も際立った存在です。推定される樹齢は約600年。利賀村の長い歴史、そしてこの地の自然の営みを、世代を超えて見守り続けてきた生き証人と言えるでしょう。

この巨木が生育するのは、坂上東山にある通称「鴻の貴水」の傍を流れる小さな谷の上流部です。特筆すべきはその根元の形状にあります。地面を力強く這い広がる根は、まるで自らの意思を持っているかのように、谷を跨ぐ形で数本に分かれて伸びています。このダイナミックかつ独特な姿は、他の場所ではなかなか見られない極めて珍しい景観を生み出しており、訪れる人々を惹きつけます。

そのサイズも驚くべきものです。根元の周囲長を測ると14.5メートルにも達し、地面から複数の幹が分岐する多幹形となっていますが、中でも最も太い幹の周囲長は5.6メートル、最も細い幹でも2.8メートルを数えます。これらの計測値が、推定樹齢約600年という数字と共に、坂上のカツラが持つ圧倒的な生命力と長い歴史を物語っています。

このカツラは、その巨木としての価値と地域のシンボルとしての重要性が認められ、平成4年（1992年）8月1日に当時の利賀村によって天然記念物に指定されました。その後、平成の大合併を経て利賀村が周辺市町村と合併し南砺市が誕生した後も、その文化財としての地位は揺るぎなく引き継がれ、現在は南砺市の指定文化財として大切に保護されています。

坂上のカツラが立つ坂上集落は、利賀川の上流部に位置し、古くからこの地域の中心的な役割を果たしてきた歴史を持つ場所です。集落内には、カツラと同様に文化財に指定されている樹齢を重ねた大杉が立つ坂上八幡宮があり、また、五箇山地域において二番目に古い歴史を持つとされる由緒ある古刹、坂上西勝寺なども点在しています。こうした歴史的な建造物や、坂上のカツラをはじめとする自然の巨木が共存する環境は、この地の豊かな文化遺産と歴史の深さを雄弁に物語っており、訪れる人々に多くの示唆を与えています。

坂上のカツラは、単なる巨木としてだけでなく、地域の歴史、文化、そして自然との深い結びつきを体現する存在として、これからもこの地を見守り続けていくことでしょう。

（参考文献：利賀村史編纂委員会 編『利賀村史3 近・現代』利賀村、2004年）

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