坂上村太兵衛

坂上村 太兵衛

坂上村 太兵衛（さかうえむら たへえ、生没年不詳）は、江戸時代中期に加賀藩の支配下にあった越中砺波郡五箇山地域において、利賀谷組の代官職、すなわち十村役を務めた人物です。苗字は小西であったと伝えられています。

加賀藩が五箇山の統治を開始した当初、藩はまず瑞泉寺下梨道場（後の瑞願寺）に属する五箇山市助を代官として、その支配を委ねる体制を敷きました。天正13年（1585年）に初代市助が任命されて以来、市助家は約100年間、5代にわたって十村の地位を世襲し、五箇山全域にわたる行政や徴税、村々の取り締まりといった重要な役割を担いました。

しかし慶安4年（1651年）になると、それまで市助家が単独で担ってきた五箇山の十村職に変化が生じます。この年、細嶋村源太郎が市助家と同格の新たな十村として任命されました。これにより五箇山は地理的に二分され、源太郎は小谷・利賀谷を含む五箇山の東半（利賀谷組）、市助は赤尾谷・上梨谷・下梨谷を含む西半（赤尾谷組）をそれぞれ管轄する、二元的な統治体制が確立します。以後、五箇山の十村役は、市助家が赤尾谷組、もう一組が利賀谷組を担当するという形で継承されていきます。

細嶋村源太郎の退任後、利賀谷組の十村役は引き継がれました。寛文2年（1662年）から寛文10年（1670年）まで、この職を務めたのは金屋岩黒村九左衛門（あるいは細嶋村九左衛門とも称される）でした。九左衛門は、管轄する組の外部から十村役に就任する、いわゆる「引越十村」の事例とされますが、その実態は、実際に居を移すことなく、もとの金屋岩黒村に在住したまま業務にあたっていたと推測されています。

寛文10年に九左衛門が退任すると、その後を受けて延宝5年（1677年）まで約7年間にわたり十村役を務めたのが、本項で述べる坂上村太兵衛です。太兵衛は、前任者九左衛門から利賀谷組の統括を引き継ぎ、当時の五箇山の村々における年貢の取り立て、法度の伝達、村々の紛争処理など、広範な行政実務を担いました。この時期は、加賀藩による五箇山の統治体制が確立し、村々の生活が安定しつつも、厳しい支配下に置かれていた時代にあたります。太兵衛は、この複雑な状況下で利賀谷組内の村々の代表として、また加賀藩の代官として、両者の間に立って職務を遂行したと考えられます。

延宝5年（1677年）に太兵衛が十村役を引退した後、その跡を継いだのは祖山村太郎助でした。太兵衛自身のその後の足跡や正確な生没年は明らかではありませんが、口碑伝承によれば、太兵衛の子孫は後に井波町（現在の富山県南砺市の一部）へ移住し、小西姓を名乗ったと伝えられています。

坂上村太兵衛は、五箇山が二組に分かれて統治される体制において、利賀谷組の十村として重要な役割を担った人物の一人であり、五箇山の近世史を語る上でその名が挙げられます。

もう一度検索