坂本昇一

坂本 昇一

坂本 昇一（さかもと しょういち）氏は、1927年（昭和2年）8月18日に神奈川県川崎市に生まれた、日本の教育学者です。特に学校における生徒指導や生活指導の分野において、理論と実践の両面から多大な貢献を果たし、千葉大学名誉教授の称号を授与されています。

その経歴は多様な経験に彩られています。1945年に海軍兵学校を中途退学した後、1947年には旧制横浜工業専門学校（現在の横浜国立大学工学部の一部にあたる）を卒業しました。卒業後は、横浜市の中学校で教諭として教壇に立ち、教育現場の最前線で経験を積みました。現場での知見を深めつつ、教育学の研究への志を抱き、1956年に東京教育大学を卒業。さらに同大学院の博士課程へと進み、1964年に満期退学しています。

大学院での学びを終えた後、坂本氏は東京都立教育研究所の研究員として、教育研究の道に進みます。その後、千葉大学教育学部に着任し、助教授、そして教授として長年にわたり学生の指導と研究活動に尽力しました。この間、1970年には、その後の生徒指導研究の基礎となる「アメリカのガイダンスにおける哲学的前提に関する研究」で、東京教育大学から教育学博士の学位を授与されています。

1992年に千葉大学を定年退官した後は、名誉教授の称号を受け、さらに聖徳大学の教授として教鞭を執り、同大学の児童学研究所長も務めるなど、教育・研究活動への情熱は衰えることはありませんでした。

坂本氏の教育界における功績は広く認められています。特に、文部省の「児童生徒の問題行動に関する調査研究協力者会議」においては主査を務め、当時の学校が抱える様々な問題に対して深く関わりました。1998年には、この会議において、学校の役割には限界があり、全ての問題を学校だけで解決することは不可能であるという、「学校は万能ではない」とする「限界主義」の立場からの答申を取りまとめ、大きな注目を集めました。これは、学校、家庭、地域社会がそれぞれの役割を認識し、連携して子どもたちを育むことの重要性を強く訴えるものでした。

また、現代日本の学校教育制度にも大きな影響を与えた学校五日制の提言者としても知られています。これは、子どもたちの豊かな人間性を育むために、学校生活にゆとりを持たせ、家庭や地域での多様な活動の時間を確保することを目的とした画期的な提案でした。

生徒指導を独立した研究分野として確立し、その研究と実践の発展を促進するため、2000年には日本生徒指導学会を設立しました。同学会は、生徒指導に関する研究者や実践家が集まり、知見を共有し、その専門性を高めるための重要なプラットフォームとなっています。

これらの長年にわたる研究成果や教育思想は、多数の著書や共編著として発表されています。これらは、生徒指導、生活指導、ガイダンス、カウンセリング、特別活動、学級経営、児童生徒の問題行動への対応など、学校現場が直面する実践的な課題から教育理論まで、幅広いテーマを扱っています。主な著書・共編著としては、以下のようなものがあります。

『生活指導の基礎と実際』（文教書院、1970年）
『ガイダンスの哲学的前提に関する研究』（風間書房、1977年）
『生活指導の理論と方法』（文教書院、1978年）
『<やる気>の生徒指導』（小学館創造選書、1985年）
『登校拒否のサインと心の居場所』（小学館、1993年）
『<子どもの心>を癒し育てる』（小学館、1998年）
『生徒指導が機能する教科・体験・総合的学習』（文教書院、1999年）
『カウンセリングと生活指導』（井坂行男共著、文教書院、1965年）
『生徒指導・相談講座』全5巻（神保信一, 中西信男共企画・編集、ぎょうせい、1982年）
『生徒指導問題解決200のポイント』（神保信一共編著、ぎょうせい、1984年）
* 『講座教育フォーラム「いじめ」への取り組み』全4巻（編、明治図書出版、1996年）

坂本昇一氏は、長年の教育現場での経験と理論研究に基づき、生徒指導を中心とした日本の教育実践と理論の発展に多大な貢献をした教育学者です。その提言や設立した学会は、現代の学校教育にも大きな影響を与えています。

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