坊がつる讃歌

「坊がつる讃歌」

「坊がつる讃歌」（ぼうがつるさんか）は、日本の歌手、芹洋子が1978年6月21日にキングレコードからシングルとして発表した楽曲です（型番：GK-218）。この歌が多くの人々に知られるきっかけとなったのは、同年6月から7月にかけてNHKのテレビ番組『みんなのうた』で放送されたことでした。情感豊かな芹洋子の歌声と、九州の雄大な山々を背景にした歌詞は、多くの視聴者の心を捉えました。

歌の起源：九重連山と登山者たち

この楽曲の源流は、戦後間もない1952年（昭和27年）に遡ります。大分県竹田市、阿蘇くじゅう国立公園内に広がる九重連山の湿原、「坊ガツル」にある山小屋で、当時九州大学の学生だった3人の登山愛好家によって原曲「坊がつる賛歌」が創作されました。

彼らが歌作りのベースとしたのは、1937年に作詞され、1940年に作曲された広島高等師範学校山岳部第一歌、通称「山男の歌」でした。山の厳しさや、それに向き合う人々の心意気を歌ったこの原曲の精神を受け継ぎ、「坊がつる賛歌」は九重の自然と登山者の心情を織り込んだ歌として誕生したのです。当初は登山者の間で歌い継がれるローカルな歌でしたが、時を経て芹洋子のシングルとして全国に届けられることとなりました。

芹洋子の代表曲として

『みんなのうた』での放送は、「坊がつる讃歌」を芹洋子の代表曲の一つへと押し上げました。番組での好評を受け、芹洋子はこの歌を携えて、1978年12月31日に放送された第29回NHK紅白歌合戦に初出場を果たしました。これは、彼女のキャリアにおける重要な節目となりました。

また、楽曲の舞台である大分県では、この歌は特に深く愛されています。大分県統計協会が毎年発行する県民手帳には、2004年（平成16年）版まで、「大分のうた」として「大分県行進曲」や「久住高原の唄（豊後追分）」と並んで、本曲の歌詞が掲載されていました。これは、地元にとってこの歌がいかに身近で、大切な存在であったかを物語っています。

これらの背景から、「坊がつる讃歌」は単なる一曲としてだけでなく、九重連山の自然や登山文化、そして大分県の郷土と結びついた歌として、多くの人々に親しまれています。

『みんなのうた』放送における希少性

「坊がつる讃歌」は『みんなのうた』で放送された楽曲の中でも、特異な記録を持っています。初回放送以降、現在まで一度も再放送されておらず、当時の映像も残念ながら現存していません（ただし、音声記録は保存されています）。

NHKでは、過去の放送回で失われた映像や音源を視聴者からの情報提供などで収集・復元する「みんなのうた発掘プロジェクト」が進められていますが、このプロジェクトにおいても、「坊がつる讃歌」の映像は未だに発見されていません。1978年度に放送された他の多くの楽曲の映像が発掘される中で、1979年2月から3月にかけて放送された『太陽の街』と共に、数少ない未発掘楽曲の一つとなっています。特に、芹洋子が『みんなのうた』で歌唱した楽曲の中では、唯一映像が確認できていない作品とされています。

この映像の希少性を示すエピソードとして、2022年3月5日に放送された『「みんなのうた60」イヤー　グランドフィナーレ特番』で、ゲスト出演した芹洋子を紹介する際にこの曲に触れた際、当時の『みんなのうた』の映像ではなく、第29回NHK紅白歌合戦で歌唱した際の映像が使用されました。

シングル収録曲

1978年6月21日に発売された芹洋子のシングルには、以下の2曲が収録されています。

坊がつる讃歌（広島高師山岳部歌より） (3:49)
歌唱：芹洋子
作詞：神尾明正、松本征夫
作曲：竹山仙史
編曲：青木望
演奏：キング・オーケストラ
愛 (4:33)
歌唱：芹洋子
作詞：岩谷時子
作曲：いずみたく
編曲：小野崎孝輔
演奏：キング・オーケストラ

「坊がつる讃歌」は、九重の山々への畏敬と、登山者の魂を歌った名曲として、そして芹洋子の温かい歌声によって広く親しまれた楽曲として、今もなお多くの人々の心に響き続けています。その歴史的背景や、『みんなのうた』における特異な記録も含め、日本の音楽史において重要な位置を占める一曲と言えるでしょう。

もう一度検索