垢嘗

垢嘗（あかなめ）

垢嘗は、日本の伝承に登場する妖怪の一種で、主に風呂場に出没し、そこに溜まった垢を舐めるとされています。名前の通り、「垢」を嘗めることが特徴で、不潔な場所を好むと考えられています。

概要

垢嘗は、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』をはじめとする江戸時代の妖怪画集に描かれており、広く知られるようになりました。多くの場合、鉤爪のある手足を持ち、長い舌を出した童子の姿で描かれています。しかし、その具体的な行動や性質については、資料によって異なり、様々な解釈が存在します。

「垢」という言葉には、文字通りの汚れの他に、心の穢れや煩悩といった意味合いも含まれることがあります。そのため、垢嘗は単に不潔な妖怪としてだけでなく、日々の生活における清潔さや心の清浄さを保つことの重要性を示唆する存在として捉えられることもあります。

江戸時代の記述

垢嘗の原型となる妖怪は、江戸時代初期の書物にも見られます。山岡元隣の『古今百物語評判』には「垢ねぶり」という妖怪が登場し、古い風呂屋に棲むとされています。これは、塵や垢の気が集まって生まれたもので、垢を食べることで生きながらえていると説明されています。

また、『日東本草図纂』には、垢舐（あかねぶり）が嬰児のような姿で描かれており、丸い目と長い舌が特徴とされています。さらに、美しい女性の姿で現れ、人の血肉を舐め取って骸にしてしまうという恐ろしい伝承も存在します。

昭和・平成以降の解釈

昭和・平成以降の妖怪関連書籍では、垢嘗は垢ねぶりと同様に、古びた風呂屋や荒れた屋敷に棲む妖怪として解釈されています。人が寝静まった夜に現れ、風呂場や風呂桶の垢を舐めるとされていますが、それ以外に危害を加えることはないとされています。

垢嘗の姿を見た者はいないとされますが、名前から連想して赤い顔や全身が赤い色をしていると想像されることがあります。不気味な存在ではありますが、人々に風呂場を清潔に保つように促す役割も担っていたと考えられています。

考察

垢嘗は、単なる妖怪としてだけでなく、日本の生活文化や価値観を反映した存在であると言えます。風呂を清潔に保つことは、健康を維持する上で重要であるだけでなく、精神的な清浄さにも繋がると考えられていました。垢嘗は、そのような意識を人々に促すための象徴的な存在だったのかもしれません。

現代においては、衛生環境が改善され、垢嘗のような妖怪を恐れる必要はなくなりました。しかし、垢嘗の伝承は、清潔さを保つことの重要性や、古くから伝わる日本の文化を今に伝える貴重な要素として、語り継がれていくことでしょう。

参考文献

岩井宏實『暮しの中の妖怪たち』河出書房新社〈河出文庫〉、2000年（原著1986年）。ISBN 978-4-309-47396-3。
岩井宏實『屋敷の妖怪』河出書房新社〈日本の妖怪百科 4〉、2000年。ISBN 978-4-309-61381-9。
* 村上健司編著『妖怪事典』毎日新聞社、2000年。ISBN 978-4-620-31428-0。

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