垣内己山

垣内 己山（かきうち きざん）

江戸時代後期の医師であり、漢詩人であった垣内己山について詳しく見ていきます。彼は紀伊国湯浅村に古碧吟社の盟主として名を馳せ、優れた医術と美しい詩作で知られています。

生い立ちと教育

垣内己山は、天明3年（1783年）に紀伊国有田郡の栖原村に生まれました。彼は医師である父、垣内亨斎の長男として、早くから学問に親しみました。紀州藩の督学である伊藤海嶠から経史を学び、その後、京都に出て、和田東郭や賀川子玄に医術を習いました。特に産科においては、彼の技術は高く評価されました。

医業と漢詩への情熱

地元に帰った後、己山は父の業を継承しつつ詩文に励む日々を送りました。当時、南紀文壇の主流が古学的な注釈学に偏っていた中で、彼は南宋の詩人、范成大や楊万里の作品に強く影響を受けました。この影響のもと、己山は清新さを重視した漢詩に打ち込みました。彼は菊池渓琴と共に、湯浅村や栖原村の同人を集め、古碧吟社を結成し、盟主として詩会を主催しました。

詩会と交友関係

初めは月に数回、同人の家を持ち回りで訪問して開催していましたが、各家庭に迷惑がかかることが悩みの種でした。そこで、湯浅村の島之内旅館「広久」に拠点を定め、以後、古碧楼と名付けて活動を続けました。己山は和歌山で盛唐詩を模範とした原田霞裳と親交を結び、二人は「南北の両雄」として讃えられました。霞裳の死後、彼はその遺稿を整理し、天保4年（1833年）には『漱芳園遺稿』を出版しました。

晩年と死

己山の晩年は銚子で過ごし、天保8年（1837年）6月11日、疫病により55歳で亡くなります。彼は施無畏寺に葬られ、文久元年（1861年）には石田冷雲の手による墓碑が建てられました。

著書

己山の著作には、以下のものがあります：

• - 「間窓偶筆」
• - 「杏林摘葩」
• - 「閑窓筆語」
• - 「詩文稿」
• - 「医談雑記」
• - 「己山遺稿」
• - 「梧窓随筆」

これらの著作の中では、自身の医療経験や詩作、さまざまな出来事を記録しています。

家族

垣内己山は、医師の家庭に生まれ、彼の父も有田郡宮崎城主の家系に結びついていました。母は松渓の次女であり、彼の兄弟姉妹の中には古田氏や鈴木氏に嫁いだ妹たちがいます。彼の子どもたちも詩や音楽に秀でており、長男の白峰は詩の才能を発揮しました。次男の熊皐は朗詠に長じ、四男の咏処は俳諧や書画にも秀でていました。彼の娘たちも、多才な才能を持っていました。

結論

垣内己山の生涯は、医師としての仕事と漢詩人としての活動を通じて、明治時代に受け継がれた伝統的な医療と文学の重要性を再確認させてくれます。彼の詩や医術は、今も多くの人々に影響を与え続けているのです。

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