城のある風景

レンブラント・ファン・レイン『城のある風景』：未完成の傑作と波乱の来歴

レンブラント・ファン・レインは、17世紀オランダ黄金時代の巨匠として知られ、数多くの肖像画や宗教画を残しました。しかし、彼の風景画作品は非常に少なく、その中でも『城のある風景』(Paysage au château. Vue imaginaire) は貴重な存在です。

この絵画は、油彩で描かれた板絵で、現在パリのルーヴル美術館に所蔵されています。全体としては明らかに未完成の状態ですが、空の部分は丁寧に彩色され、完成度が高いことが特徴です。レンブラントのエッチング作品には、オランダの自然を簡潔に描いたものが多くありますが、この油彩作品は、架空の風景を描いた雄大で劇的な作品となっています。

丘の上にそびえ立つ城は、ローマのアウグストゥス廟を思わせる円堂とゴシック様式の建築が融合した、想像上の建造物です。その威容は周囲を見下ろすかのように描かれ、力強い存在感を放っています。絵画の右下には、大胆で近代的な筆致が見られ、レンブラントの卓越した表現力の片鱗が垣間見えます。

制作年をめぐる議論

『城のある風景』の制作年は、美術史家の間でも意見が一致していません。1640年から1654年までの様々な説があり、ルーヴル美術館では1640年から1642年ごろとされています。制作年代の特定には、さらなる研究が必要でしょう。

複雑な来歴：没収と売却、そして寄贈

この絵画の来歴は、非常に複雑で興味深いものです。1692年の記録では、デルフトのヘールトライト・ブラッセルという人物のコレクションに『レンブラントの城』として記載されていました。その後、ロシアの将軍ヤン・ピーテル・ファン・スフテレン、そしてパーヴェル・ストロガノフと、所有者は変わっていきます。

1917年のロシア革命によって、ストロガノフの所蔵品は国家によって没収されました。その後、遅くとも1925年までにはエルミタージュ美術館に収蔵されていましたが、1932年にはソ連政府によって秘密裏に売却されました。

1933年にはパリの収集家エティエンヌ・ニコラが所有者となり、1942年にはアドルフ・ヒトラーが「総統美術館」のために購入しようと試みました。第二次世界大戦後、この絵画はセントラル・コレクティング・ポイントを通してニコラに返却され、1948年にニコラによってルーヴル美術館に寄贈されたのです。

このように、『城のある風景』は、未完成ながらも高い芸術性を持ち、その制作から現在に至るまで、数々の出来事を経てきた、歴史的にも重要な絵画作品なのです。その波乱に満ちた来歴が、作品にさらに深みを与えていると言えるでしょう。 レンブラントの他の作品と比較しても、この絵画は、未完成であるにもかかわらず、その独特の雰囲気と力強さで、見る者を魅了し続けます。

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