アウグストゥス廟

アウグストゥス廟は、ラテン語で「Mausoleum Augusti」と呼ばれ、古代ローマの歴史的な建造物です。紀元前28年、初代ローマ皇帝アウグストゥスによって、ローマ市内のカンプス・マルティウス地区に自身の霊廟として築造されました。長期間にわたり放置された時期もあり、建設当時の壮麗な大理石装飾などは失われてしまいましたが、現在もカンプス・マルティウス地区の北端部における重要なランドマークの一つとして、その巨大な姿をとどめています。

構造と外観

建造当時のアウグストゥス廟は、同心円状に積み上げられた基壇の上に円錐形の屋根が載せられ、その上には糸杉が植えられていたと推測されています。頂上にはアウグストゥスの像が設置されていたと考えられています。屋根の下、建物の中心部には、遺灰を納めるための埋葬室が設けられていました。霊廟の入口の両側には、バラ色の花崗岩から作られた一対のオベリスクが配置されていましたが、これらのオベリスクは現在、エスクイリーノの丘にあるサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の北西脇と、クイリナーレの丘の噴水広場に移設されています。霊廟全体の規模は極めて大きく、高さは約42メートル、直径は約90メートルに達しました。

入口から内部へ進むと、まっすぐに中央の埋葬室に通じる通路があります。この埋葬室には、遺灰を納めた黄金の骨壷を収めるための三つのニッチ（壁龕）が設けられていました。ここにアウグストゥス自身をはじめ、彼の血縁者や養子であるユリウス＝クラウディウス朝の主要な人々が埋葬されました。

歴史

霊廟の建設は、紀元前31年のアクティウムの海戦で宿敵を破り、共和政ローマにおける唯一の支配者としての地位を確立したアウグストゥスが、荒廃していたローマ市内の大規模な再建に着手した、その最初期の事業の一つとして位置づけられています。

その後、時代が下り、410年には西ゴート族の王アラリック1世によるローマ略奪（ローマ劫掠）が発生しました。この際に霊廟の屋根部分が破壊され、中にあった黄金の骨壷や遺灰も散逸してしまったとも伝えられています。中世に入ると、アウグストゥス廟はその堅牢な構造を利用して城塞として改築され、当時のローマを代表する有力貴族であったコロンナ家の拠点となりました。しかし、12世紀にコロンナ家が教皇庁に対抗して結成されたローマ市の民衆組織（Commune of Rome）との戦いに敗れた結果、この城は廃城とされ、破壊を受けて現在の廃墟に近い外観となりました。

長い間、荒廃したまま放置されていましたが、20世紀の1930年代に、古代ローマの歴史的建造物の再整備が進められた際、アウグストゥス廟も修復と一般公開が行われました。これは、当時のイタリア国家統領ベニート・ムッソリーニが、自身のファシズム体制を古代ローマ帝国の輝かしい歴史と結びつけ、自らを「アウグストゥスの生まれ変わり」として新しいイタリアを建設しようとする政治的な意図の下で行われた事業でした。この再整備に伴い、霊廟の周囲に密集していた住宅が取り壊されたため、現在は空堀によって区切られた緑豊かな広場の中に霊廟が位置するという景観になっています。

その後、再び長らく放置され、廃墟に近い状態が続いていましたが、2017年に通信会社テレコム・イタリアからの600万ユーロの支援を受けて、大規模な修復プロジェクトが開始されました。この修復では、遺跡を覆っていた植物やごみの除去、内部空間の整備に加え、壁面へのマルチメディア展示の投影などが計画されています。そして、修復が一段落した2021年3月より、事前予約制ながら一般向けの公開が再開されています。

埋葬された主な人物

アウグストゥス廟には、アウグストゥス自身を含め、ユリウス＝クラウディウス朝の主要な人物が数多く埋葬されました。アウグストゥスの埋葬以前にここに葬られたのは、甥のマルクス・クラウディウス・マルケッルス、腹心のマルクス・ウィプサニウス・アグリッパ、養子となるガイウス・カエサルとルキウス・カエサル、姉の小オクタウィアなどです。アウグストゥス自身もここに永遠の眠りにつきました。

アウグストゥスの死後には、妻のリウィア・ドルシッラ、第2代皇帝ティベリウス、第3代皇帝カリグラ、第4代皇帝クラウディウスといった歴代皇帝の他、ゲルマニクス、大アグリッピナ、小ドルスス、ブリタンニクス、小アントニア、ポッパエア・サビナなど、多くの皇族が葬られました。後には、五賢帝の一人である第12代皇帝ネルウァもこの霊廟に葬られています。また、カラカラ帝やゲタ帝の母であるユリア・ドムナも一時ここに葬られましたが、後にハドリアヌス廟（現在のサンタンジェロ城）に移されています。

これらの埋葬者リストから、アウグストゥス廟がユリウス＝クラウディウス朝を中心とした初期ローマ帝国の中心的な墓所として機能したことがわかります。

現在は修復が進み、歴史的な遺跡として見学が可能となっており、古代ローマの権力と歴史を今に伝える貴重な場所となっています。

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