基 (僧)

基（き）

基は、中国唐代に活躍した仏教の僧侶で、法相宗を創設した人物です。英名には「大乗基」や「慈恩大師」との名称もありますが、通称の「窺基」ではなく、「基」が本来の名前です。彼の存在は仏教の研究及び実践において極めて重要な意味を持ち、特に唯識学派の発展に寄与しました。

生涯

基は尉遅氏に属し、長安県に生まれました。彼の家族背景には、唐の左金吾将軍である父、尉遅宗（尉遅敬徳の従弟）がいます。17歳で出家を決意し、著名な僧侶である玄奘三蔵の弟子となりました。玄奘の下で彼は経典の翻訳に関与し、そのプロセスで中国語の点検を行いました。

顕慶4年（659年）には、彼の研究成果として『成唯識論』の注釈を加えた『成唯識論述記』と『成唯識論掌中枢要』を著しました。これにより彼は唯識理論の批判と新しい唯識説の確立を行い、その思想が後の法相宗形成に大きな影響を与えることとなりました。

翻訳活動

基の重要な著作には、龍朔元年（661年）に訳された『弁中辺論』や『唯識二十論』があり、その翌年には『異部宗輪論』、さらに、その翌々年には『界具足論』の翻訳を手がけました。これらの作品は、仏教の教義の理解を深めるための重要な資源となっています。基はまた、五台山に訪れたことがあり、当時の僧侶である道宣との交友も築きました。彼の著作数は多く、「百本の疏主、百本の論師」と称されるほどです。特に、『法苑義林章』や『成唯識論述記』に示された教義は法相宗の基盤を形成し、基を宗祖として位置づけることとなりました。このことから、法相宗は慈恩宗とも呼ばれるようになりました。

三車法師の逸話

基が出家する際、師である玄奘に求めた条件の一つは、女色や酒肉を断つことでありました。彼が僧としての生活を送る中で、酒、女性、経典を載せる三つの「車」を率いたという逸話から、「三車法師」というあだ名がつけられました。ただし、学術的には「宋高僧伝」におけるこの逸話には信頼性が乏しいとされています。この伝記自体も、基が自ら述べた来歴と矛盾し、誹謗中傷の可能性についても触れられています。

主な著作

基の残した著作は多岐にわたりますが、主なものには以下の書籍が含まれます：

• - 『瑜伽論略纂』
• - 『百法論疏』
• - 『因明入正理論疏』（略称『因明大疏』）
• - 『妙法蓮華経玄賛』（略称『法華玄賛』）
• - 『無垢称経疏』
• - 『大乗法苑義林章』

これらの著作は、彼の思想や理論を知るための重要な資料であり、後の仏教徒にとっても欠かせないテキストとなっております。

参考文献

基に関する伝記資料としては、特に『宋高僧伝』の巻4に彼の生涯や業績が記されており、彼の影響力を理解する上での重要な資料となっています。

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