基本転写因子

基本転写因子 (General Transcription Factor, GTF)

基本転写因子（GTF）とは、真核生物において遺伝情報の読み出し、特にクラスII遺伝子からメッセンジャーRNA（mRNA）を合成する「転写」という生命現象に不可欠な役割を果たす一連のタンパク質群を指します。

遺伝子の転写は、まずDNAの特定の領域に転写装置が集まることから始まります。基本転写因子は、中心的な転写酵素であるRNAポリメラーゼIIと協調して、DNAの鋳型となる一本鎖に結合し、転写が開始される正確な位置を特定し、安定な「転写開始前複合体」という巨大な分子集合体を形成します。この複合体の形成は、転写を正確かつ効率的に開始するために極めて重要です。

機能

基本転写因子は、遺伝子の発現調節機構において中心的な役割を担っており、その機能は生命活動を維持するためにほとんどの場合不可欠です。例えば、TATA結合タンパク質（TBP）は、多くの遺伝子の転写開始点の上流に存在する「TATAボックス」と呼ばれる特徴的なDNA配列に結合する代表的な基本転写因子の一つです。TBPは、DNAプロモーター領域の中心部と特異的に相互作用することで、転写開始複合体の組み立ての足場を提供します。

興味深いことに、全ての基本転写因子が転写の最初のステップである「開始」のみに関与するわけではありません。一部の基本転写因子は、RNAポリメラーゼIIがDNA鎖を読み進める「伸長」の段階においても重要な機能を果たします。例えば、FACT（Facilitates Chromatin Transcription）複合体と呼ばれる基本転写因子群（酵母ではSpt16/Pob3、ヒトではSUPT16H/SSRP1などが含まれます）は、転写中のRNAポリメラーゼIIがDNA上を円滑に移動するのを助けます。これは、DNAがヒストンというタンパク質に巻き付いて形成されるクロマチン構造を、転写中のポリメラーゼの通過に合わせて一時的に緩和し、ポリメラーゼの進行経路からヒストンを排除することで実現されます。これにより、クロマチンが高度に凝縮している領域でも転写が効率よく進行することが可能になります。

主要な種類

試験管内（in vitro）での実験において、RNAポリメラーゼIIを用いた基本的な転写反応を再現するために必要であることが確認されている代表的な基本転写因子には、以下のようなものがあります。

TFIIA (Transcription Factor II A)
TFIIB (Transcription Factor II B)
TFIID (Transcription Factor II D)
TFIIE (Transcription Factor II E)
TFIIF (Transcription Factor II F)
TFIIH (Transcription Factor II H)

なお、TFIIAは、厳密には基本転写因子として分類されない場合もあります。また、驚くべきことに、特定の条件下での試験管内転写は、精製された組換え型のTFIIBとTFIIFという二つの基本転写因子のみを用いることでも成功することが報告されています。

これらの基本転写因子はそれぞれが独立した機能を持つと同時に、互いに連携して働くことで、遺伝子転写という複雑なプロセスを精密に制御しています。

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