堀多恵子

堀 多恵子（ほり たえこ、1913年（大正2年）7月30日 - 2010年（平成22年）4月16日）は、日本の随筆家。

静岡県に生まれた堀多恵子は、旧姓を加藤といいました。父は日本郵船の駐在員であったため、幼少期は香港や広東といった海外で過ごしました。その後、東京女子大学で学びます。1937年、弟の俊彦とともに静養のため軽井沢を訪れたことが、その後の人生を決定づける出来事となります。そこで、山下汽船の経営者であった山下三郎の弟、波郎の紹介により、婚約者・矢野綾子を亡くし失意の中にあった小説家、堀辰雄と出会いました。二人は翌1938年、詩人・作家である室生犀星の媒酌によって結ばれます。

夫である堀辰雄が1953年に亡くなった後、多恵子は信濃追分にある堀辰雄の家（旧居）に住み続け、その遺産を守ることに後半生を捧げます。この旧宅は後に堀辰雄文学記念館として公開され、多恵子はその維持と堀辰雄の文学を後世に伝える活動の中心となりました。また、随筆家として、夫との日々やその思い出、軽井沢での暮らしなどを主題とした作品を数多く発表しました。堀辰雄没後、約50年もの間、彼女は夫の文学を支え、その記憶を文章の中に生き続けさせました。2010年に96歳で亡くなるまで、堀多恵子は堀辰雄という文学者の最も身近な証人であり続けたのです。

主な著書としては、以下の作品が挙げられます。

『葉鶏頭 辰雄のいる随筆』（麦書房、1970年）
『片蔭の道』（青娥書房、1976年）
『返事の来ない手紙 1973.5.1～1974.4.28』（文京書房、1979年）
『来し方の記・辰雄の思い出』（花曜社、1985年）
『山麓の四季』（花曜社、1986年）
『堀辰雄の周辺』（角川書店、1996年）
『野ばらの匂う散歩みち 堀多恵子談話集』（堀辰雄文学記念館編、軽井沢町教育委員会、2003年）
『雑木林のなかで 随筆集』（槐書房、2010年）

また、堀辰雄に関する編著や、他の作家との共著もあります。

編著
堀辰雄『妻への手紙』（新潮社、1959年／新潮文庫、1965年）
『現代の随想 12　堀辰雄集』（彌生書房、1981年）
『堀辰雄初期作品集』（池内輝雄共選、堀辰雄文学記念館編、軽井沢町教育委員会、2004年）
共著
『四季の詩・軽井沢』（秋谷豊ほか共著、講談社、1980年）
* 『山ぼうしの咲く庭で』（堀井正子共著、オフィス・エム、1998年）

彼女の随筆は、堀辰雄の作品世界を身近な視点から捉え直す貴重な資料であるとともに、軽井沢という土地の風土を描いたものとしても親しまれています。

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