塚原史

塚原史（つかはら ふみ）は、1949年生まれの日本の思想研究者であり、早稲田大学の名誉教授です。専門は表象文化論、現代思想であり、特にダダイスムやシュルレアリスムといったアヴァンギャルド芸術運動の思想史的研究に力を注いでいます。また、フランスの現代思想家ジャン・ボードリヤールの翻訳者としても著名で、彼の思想を日本に紹介する上で重要な役割を果たしました。

塚原氏は、東京都出身で、桐朋中学校・高等学校を経て、早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業。その後、京都大学大学院文学研究科でフランス文学を専攻し修士課程を修了、パリ第3大学博士課程を中退後、早稲田大学大学院文学研究科博士課程を修了しました。早稲田大学では法学部専任講師、助教授を経て、法学学術院教授、會津八一記念博物館館長を歴任し、2019年に退任。現在は早稲田大学名誉教授として、研究活動を継続しています。また、早大都市と美術研究所顧問、トリスタン・ツァラ文化文学協会（ルーマニア）名誉会員も務めています。

研究活動においては、アヴァンギャルド芸術の思想史的研究を通じて、ダダや未来派の「切断」や「反逆」といった発想を、ポストモダン以降の現代思想や、荒川修作、松澤宥らの思考実験と関連づけて考察しています。特に、1930年代のフランス思想と岡本太郎の「太陽の塔」を関連付けた解釈は、注目を集めました。パリ留学中には、今村仁司氏の勧めでボードリヤールの『消費社会の神話と構造』を翻訳し、これをきっかけにボードリヤールと親交を深めました。1995年には、ボードリヤールと吉本隆明との公開討論を企画したり、2003年にはボードリヤールを早稲田大学に招き講演会を開催するなど、ボードリヤールの思想を日本に紹介することに大きく貢献しました。また、1990年代からは芸術家荒川修作と親交を深め、2008年には東京国立近代美術館で荒川氏と対談するなど、美術界にも大きな影響を与えました。

国際的な活動も活発で、2005年にはパリのポンピドゥー・センターで開催されたダダ回顧展に関連する国際論集に執筆したり、ルーマニアのツァラ協会機関誌にも寄稿しています。2000年代に入ってからは、『反逆する美学』(2008)、『切断する美学』(2013)、『模索する美学』(2014)というアヴァンギャルド研究三部作を刊行し、その研究成果を広く発表しています。これらの著作は、芸術や美学における「反逆」の可能性を追求する上で重要な文献として評価されています。また、2014年には「荒川修作の軌跡―天命反転、その先へ」展、2016年には「チューリッヒ・ダダ100周年―ダダイスト・ツァラの軌跡と荒川修作」展を開催し、ダダやシュルレアリスムの芸術運動を一般の人々に紹介することにも貢献しました。

翻訳家としては、ボードリヤールの著作を中心に、多数のフランス現代思想の翻訳を手掛けています。最近では、エリボン著『ランスへの帰郷』、ヴュイヤール著『その日の予定』、ソヴァージョ著『ボードリヤールとモノへの情熱』などの翻訳を刊行しています。また、2023年には『メディア論の冒険者たち』に「ジャン・ボードリヤール　モノの記号論からメディアのシミュラークル論へ」を発表し、新たな分野としてピエール・ヴェリー『サインはヒバリ　パリの少年探偵団』の邦訳も出版するなど、幅広い分野で翻訳活動を行っています。

著作としては、『プレイバック・ダダ　トリスタン・ツァラの冒険とその後』、『ダダ・シュルレアリスムの時代』、『終末のソリチュード』、『言葉のアヴァンギャルド ダダと未来派の二〇世紀』、『アヴァンギャルドの時代 1910年-30年代』、『記号と反抗 二十世紀文化論のために』、『人間はなぜ非人間的になれるのか』、『20世紀思想を読み解く』、『ボードリヤールという生きかた』、『反逆する美学 アヴァンギャルド芸術論』、『ボードリヤール再入門 消費社会論から悪の知性へ』、『荒川修作の軌跡と奇跡』、『切断する美学　アヴァンギャルド芸術思想史』、『模索する美学 アヴァンギャルド社会思想史』、『ダダイズム　世界をつなぐ芸術運動』などがあります。これらの著作は、20世紀の文化や思想を理解する上で重要な文献となっています。

塚原史は、アヴァンギャルド芸術運動の研究だけでなく、現代思想、特にボードリヤールの思想を日本に紹介する上で、非常に重要な役割を果たした研究者であると言えるでしょう。

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