塩まさる

塩まさる（しお まさる、本名：塩 正吉）は、1908年（明治41年）2月12日に福島県いわき市に生まれ、2003年（平成15年）10月16日に95歳でその生涯を閉じた、昭和時代を代表する歌手の一人です。

早稲田大学商学部を卒業後、鉄道関連の職務に就いた塩まさる氏でしたが、その道を離れ歌手の道を歩み始めます。

1937年（昭和12年）、キングレコードより「軍国子守唄」でデビュー。この楽曲は30万枚を超える記録的なヒットとなり、歌手としての地位を確立しました。翌1938年には「母子船頭唄」を発表。そして、1939年（昭和14年）にテイチクへ移籍後、発売された「九段の母」は、当時の社会情勢とも相まって国民的な大ヒットとなり、塩まさるの名前は不動のものとなります。

当時の歌謡界において、時勢を反映した楽曲を数多く世に送り出し、「月下の吟詠」「故郷の新聞」「大陸列車」といった作品も広く親しまれました。

第二次世界大戦終結後も歌手活動は継続しましたが、昭和20年代後半になると、塩まさる氏は「自身の時代は終わった」と感じ、歌謡界から身を引き、実業家へと転身します。

しかし、彼の歌への情熱が完全に消えることはありませんでした。昭和40年代に入り、かつての流行歌が再び注目を集める懐メロブームが到来すると、1967年（昭和42年）頃から「まだ自分にも出来ることがある」との思いを胸に、歌手活動を再開します。復帰後は、福祉施設などでの慰問活動を中心に歌を届け、再び歌唱の基礎などを学び直すなど、向上心を持ち続けました。

平成に入ると、塩まさる氏は国内でも屈指の高齢現役歌手として改めて脚光を浴び始めます。彼がライフワークとして取り組んだ、昭和の名曲を「昭和の万葉集」と称して歌い継ぐ活動が注目され、メディアへの出演機会が顕著に増加しました。

1992年には84歳という高齢ながら、古巣であるキングレコードから全曲新録音によるアルバム「塩まさる84歳の青春」を発売。この異例の挑戦は、記録的な高齢での快挙として広く話題を呼びました。さらに、1997年（平成9年）5月には89歳で新曲「夢追い草（ひつじ草）」を発表。この楽曲は、作詞者（81歳）、作曲者（85歳）、編曲者（故人だが編曲当時83歳）、そして歌手（89歳）と、制作に携わった主要メンバー全員が80歳以上という前代未聞の構成が大きな注目を集めました。同年、第39回日本レコード大賞功労賞を受賞し、長年の功績が称えられました。

1999年には91歳でベストアルバム「塩まさる全曲集」を発売。過去の音源ながら、当時の最高齢CD発売としてテレビ番組でも紹介されるなど、晩年まで話題を提供し続けました。

21世紀を迎えても、90歳を超えてなお歌い続ける姿は多くの人々に感動を与えましたが、長年連れ添った夫人に先立たれたショックから体調を崩し、2003年（平成15年）10月16日、老衰により95歳で永眠しました。

その長い歌手人生を通じて、塩まさる氏は昭和の歌謡史に確かな足跡を残し、特に晩年は高齢になっても情熱を持って歌い続けた稀有な存在として、今なお多くの人々の記憶に残っています。没後も2004年に追悼盤が発売されるなど、その歌声は後世に伝えられています。

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