塼仏

塼仏（せんぶつ）とは

塼仏は、特別な粘土で凹型に成形し、焼成した後に金泥や箔で装飾された浮彫の仏像です。日本ではこの工芸品は薄く形作られ、タイル状で表現されることが特徴です。この技術は、中国において6世紀中頃から始まり、特に唐代にその生産が盛んになりました。その後、日本には7世紀中頃に伝わり、飛鳥時代の後期を中心に多くの作品が制作されました。こうした塼仏は、大和国をはじめ、東北地方から九州にかけて広く見られ、わずかながら江戸時代にも製作が行われていました。

歴史的背景

大村西崖の研究によると、中国で最古の塼仏は大魏の興和5年（543年）に作られた観音像で、舟形の光背を持っている独尊像です。この像は個人的な功徳を目的に製作されたもので、大量生産されることはなかったと考えられています。しかし、唐代に入ると、大量生産されたものと推測される塼仏が数多く発見されるようになります。

特に永徽年間の碑文に記載されている通り、僧法津が68万4千体の仏像を造り、大唐千仏寺を建立した際の塼仏があり、この塼仏は寺の堂内を装飾するために用いられたと考えられています。このような背景を持つ塼仏が、日本に伝播したとみられています。

日本への伝播とその影響

塼仏が日本にいつ伝来したのかは明確ではありませんが、橘寺が古代寺院の中で最も早く出土した遺構とされています。橘寺の金堂跡からは、倚像（椅子に座る姿の如来）を中尊として、両脇に合掌する菩薩立像を配置した三尊像が発掘されています。このような像は、中国の唐代の寺院でも類似の図像が出土しており、天智期には中国の仏教美術が影響を与えたとされています。

また、山田寺からは6種類の塼仏が見つかっており、これらは大型の塼仏を中心に十二尊像や如来立像が配されて、金堂の壁面を飾っていたと考えられています。さらに進化した様式を持つ遺構としては、夏見廃寺や南法華寺の出土品があり、これらはそれぞれ持統期や文武期の時代に製作されたものとされています。

塼仏の製作と流通

塼仏の製作に関する出土例を見てみると、中央の官立寺院であった大官大寺や本薬師寺では出土が確認されていないことが特徴的です。一方、中央に位置する皇族や有力な豪族に関連する氏寺級の寺院からは多くの塼仏が見つかる傾向があります。このことから、久野健は、官立寺院では堂内装飾に繡仏が使用され、次に銅板の押出仏が用いられ、その簡便な形態が塼仏であったのではないかと推測しています。

興味深いことに、奈良時代に入ると畿内の寺院では塼仏の使用がなくなりますが、地方の寺院では中央よりも遅れて製作された可能性があるため、地域によって異なる文化の影響を見ることができるのです。このように、塼仏は日本の仏教美術における一つの重要な遺産であり、その歴史を振り返ることは、古代日本の宗教や文化の理解にとても大切です。

参照文献

• - 久野健『日本仏像彫刻史の研究』吉川弘文館、1984年。
• - 山本勉『日本仏像史講義』平凡社、2015年。

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