増穂残口

増穂残口(ますほざんこう、1655年-1742年)は、江戸時代中期において特異な経歴を持つ人物であり、神道家、国学者、そして戯作者として多方面で才能を発揮しました。

豊後国松岡（現大分市）の生まれと伝えられており、若き日は近衛氏に仕えていたとされます。その後、仏門に入り、浄土宗や日蓮宗の僧侶としての道を歩みます。しかし、彼の生涯はそこで終わらなかったのです。

上京後、[江戸]]の谷中感応寺の住職を務めることになりますが、江戸幕府の不受不施派禁令により、1715年]に[[還俗を余儀なくされます。この出来事が、彼の転機となります。

還俗後、残口は新たな道を歩み始めます。上洛して卜部家の神道家に転向し、朝日神社の神職に就任しました。この転向は、彼の思想に大きな影響を与えます。神職として、彼は独自の思想を展開し、数多くの著作を著しました。

残口の思想の中核には、男女間の愛情の平等という考えがありました。さらに、当時主流であった儒教や仏教を排し、神道の思想復興を強く主張しました。これらの主張は、当時の社会状況においては非常に革新的であり、斬新なものであったと言えるでしょう。

彼の著作物は、後世「残口流」と呼ばれる独自の流派を形成するに至ります。その作風は、戯作に強い影響を受けており、当時の文学界に新たな風を吹き込んだと言えるでしょう。特に『艶道通鑑』や『異理和理合鏡』といった代表作は、現在も高い評価を受けています。これらの著作と、さらに6部を加えた計8部からなる著作群は、「残口八部書」として知られています。

増穂残口の生涯は、激動の時代を生き抜き、様々な境遇を経験した結果、独自の思想と表現方法を確立した稀有な人物であったことを示しています。僧侶から神職へと転身し、独自の思想を貫き、数々の著作を残した彼の生涯は、現代においても、多様な生き方、そして神道や文学への深い理解を促す貴重な資料となっています。彼の著作は、単なる宗教的、文学的著作にとどまらず、当時の社会状況や思想を反映した貴重な史料として、歴史研究においても重要な位置を占めていると言えるでしょう。また、彼の著作が後の戯作に影響を与えたという事実は、彼の文学的才能がいかに優れていたかを示すものでもあります。近衛氏への仕え、仏門への入信、そして神道への転向、それぞれの経験が彼の思想を形成し、独自の表現方法を生み出したと言えるでしょう。

彼の著作は、現代においてもその価値を失わず、私たちに多くの示唆を与え続けています。時代を超えて、多くの人々に読まれ、そして理解されることでしょう。増穂残口という一人の人物の生涯を通して、江戸時代中期の社会状況、思想、そして文学の一端を垣間見ることができるのです。

もう一度検索