墨染

墨染（すみぞめ）

墨染は、京都市伏見区にある地名です。その名の由来は、平安時代にまで遡る伝説に彩られています。

歴史

墨染という地名の起源には、美しい物語が秘められています。平安時代、上野岑雄（かむつけのみねお）が、親友である藤原基経（ふじわらのもとつね）の死を深く悼み、「深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染めに咲け」と歌いました。すると、この地の桜が歌に感応したかのように、墨を染めたような色合いの花を咲かせたというのです。この伝説が、墨染という地名の由来の一つとして語り継がれています。

また、室町時代には、世阿弥などの能作者によって創作された小野小町にまつわる「百夜通い」の伝説があります。その物語に登場する深草少将の屋敷が、現在の欣浄寺（きんじょうじ）の場所に存在したと伝えられています。

江戸時代に入ると、墨染は交通の要衝として発展しました。京街道、奈良街道、大津街道が交差する地点であったため、1699年（元禄12年）には茶屋株（お茶屋の営業権）が許可され、多くの人々で賑わいました。墨染の南部（現在の伏見郵便局の東側）には撞木町（しゅもくちょう）遊廓が設けられ、忠臣蔵で有名な大石内蔵助が遊んだという逸話も残されています。

明治維新後、行政区画の変遷により、墨染地区の家並み以外の土地は深草村へと編入されました。その結果、墨染町は伏見市に、深草墨染町は紀伊郡深草町にそれぞれ属するという複雑な状況が生じました。この名残から、現在でも墨染地区の町割りや小学校の区割りは入り組んだ形となっています。

花街としての墨染は、天保の改革による取締りを受け、一時衰退しましたが、すぐに再開されました。明治時代に入ってからもその賑わいは続き、1878年（明治11年）には芸妓3名、娼妓11名の存在が確認されています。しかし、時代の流れとともに花街は徐々に衰退し、1910年（明治43年）に京阪電気鉄道が開通した翌年の1911年（明治44年）頃には、その歴史に幕を閉じました。

現在では、京阪本線墨染駅を中心に、墨染通りや直違橋通りが「墨染ショッピング街」として賑わいを見せています。「墨染」の名を冠した施設も周辺に点在し、その歴史を今に伝えています。

墨染寺（ぼくせんじ）

墨染には、日蓮宗の寺院である墨染寺があります。この寺は、墨染桜（すみぞめざくら）と呼ばれる美しい桜で知られ、桜寺、墨染桜寺とも呼ばれています。山号は深草山です。

墨染通（すみぞめどおり）

竹田街道（国道24号線）から墨染町を抜け、深草大亀谷から八科峠を経て六地蔵へと繋がる東西の通りは、墨染通と呼ばれています。墨染から六地蔵までの区間は、古くから「郡山街道（奈良街道）」の一部として位置づけられてきました。竹田街道から師団街道までは東向きの一方通行となっています。

その他

墨染駅 - 京阪電気鉄道京阪本線
墨染発電所 - 琵琶湖疏水（鴨川運河）

参考文献・出典

『亡くなった京の廓 上』田中緑紅 京を語る会、1958年
『京都遊廓見聞録』田中泰彦編集 京を語る会、1993年

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