声をかくす人

映画『声をかくす人』解説

『声をかくす人』（原題: The Conspirator）は、2010年に公開されたロバート・レッドフォード監督による歴史映画です。南北戦争終結直後のアメリカを舞台に、エイブラハム・リンカーン大統領暗殺事件に関与したとして、アメリカ合衆国政府によって初めて死刑判決を受けた女性、メアリー・サラットの裁判を描いています。

あらすじ

物語は、南北戦争で北軍の大尉として戦い、戦後は弁護士を目指すフレデリック・エイキンが、リンカーン大統領暗殺の共謀者として逮捕されたメアリー・サラットの弁護を担当することから始まります。南部出身の未亡人であるメアリーは、下宿屋を営んでおり、そこに暗殺者たちが潜伏していたことが罪に問われたのです。

事件は1865年、ジョン・ウィルクス・ブース率いる南軍残党が、劇場でリンカーン大統領を射殺したことから始まります。ブースは逃走中に射殺され、共犯者たちは次々と逮捕されていきます。メアリーの息子ジョンもその一人でしたが、行方をくらましていました。

裁判でメアリーは一貫して無実を主張しますが、裁判長や判事はすべて北軍の軍人という状況でした。エイキンは、検察側の証人を論破しながらも、南部出身のメアリーに対して、有罪という感情を拭い去ることができません。メアリーは、逃亡中の息子は殺人とは無関係だとエイキンに訴えます。

しかし、証人たちは検察の意向を受け、メアリーに不利な偽証を繰り返します。エイキンは法廷で偽証を非難し、北部の反感を買ってしまいます。エイキンにとって、この裁判は勝っても負けても自身のキャリアに傷がつくものでした。

メアリーを救うため、エイキンは逃亡中の息子ジョンに罪を被せることを考え、ジョンの姉アンナを証人喚問します。しかし、それはジョンを庇いたいメアリーを苦しめるだけでした。陸軍長官スタントンは、この裁判を戦後の国家再建に利用しようと画策し、判決を操作します。

最終的に、メアリーを含む被告全員に死刑が言い渡されます。エイキンの嘆願もむなしく、メアリーは絞首刑に処せられました。弁護士を辞めたエイキンは、新聞社で活動を始めることになります。

キャスト

フレデリック・エイキン：ジェームズ・マカヴォイ
メアリー・サラット：ロビン・ライト
ニコラス・ベイカー：ジャスティン・ロング
アンナ・サラット：エヴァン・レイチェル・ウッド
ジョニー・サラット：ジョニー・シモンズ
ジョン・ウィルクス・ブース：トビー・ケベル
* エドウィン・スタントン：ケヴィン・クライン

作品の評価

映画『声をかくす人』は、歴史的な事件を題材に、正義とは何か、国家とは何か、そして個人の良心とは何かを問いかける作品です。ロバート・レッドフォード監督は、史実に基づきながらも、現代社会にも通じるテーマを浮き彫りにしています。

一部の批評家からは、歴史考証の甘さや、ドラマ性の不足を指摘する声もありましたが、全体的には、重厚な演出と俳優たちの演技が高く評価されています。特に、メアリー・サラット役のロビン・ライトの演技は、観る者の心を揺さぶるものがあります。

映画が描くテーマ

映画は、リンカーン大統領暗殺事件という歴史的な出来事を背景に、国家の正義と個人の倫理、そして政治的な思惑に翻弄される人々の姿を描いています。特に、メアリー・サラットの裁判を通して、戦後の混乱期における人々の感情や、司法制度の問題点を浮き彫りにしています。また、新米弁護士エイキンが、自身の信念と社会の圧力の間で葛藤する姿を通して、現代社会にも通じる普遍的なテーマを提示しています。

鑑賞後

『声をかくす人』は、単なる歴史ドラマとしてだけでなく、現代社会にも通じる普遍的なテーマを扱った作品として、観る者に深い感動と考察を与えるでしょう。ぜひ、この機会にご覧になってみてください。

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