外傷的絆

外傷的絆（Traumatic Bonding）

外傷的絆とは、繰り返し行われる虐待やその連続的な影響から生まれる強固かつ不健全な感情の繋がりを指します。これは、個人間や群体との関係においても見られる現象です。この絆は、時には加害者が被害者に対して優しさを示した後で、再び暴力を振るうという形で強化されるため、恐怖と依存が交錯した複雑な関係性が形成されます。心理学者のジョージ・ダットンとスーザン・ペインターによって提唱された概念であり、他にもトラウマ性の絆、トラウマティック・ボンディング、トラウマ・ボンドという名称が使われます。

外傷的絆の特徴

外傷的絆は、被害者が加害者との関係において、情緒的な依存や愛着を形成する際に生じます。これは、愛着トラウマと呼ばれる現象の一環であり、被害者は加害者との関係から逃れられなくなることが一般的です。加害者の暴力的な行為が、被害者の自己評価や自意識を歪め、従属的な立場を強化するのです。このような絆は、人間同士だけでなく動物間でも見られることがあります。

成立要因

外傷的絆が形成されるためには、次の二つの要素が重要な役割を果たします。一つ目は、力の不均衡です。これは加害者が持つ力と支配が、被害者に対して心理的な圧力をかけることを意味します。二つ目は、断続的な強化のプロセスです。すなわち、加害者が暴力を振るった後に時折優しい行動を示すことで、被害者は加害者にも「良い側面」があると錯覚し、「本当は良い人」だと信じ込むのです。これはガスライティングと呼ばれる心理的手法の一環であり、被害者を混乱させ、自己評価を低くさせる効果があります。

影響と結果

外傷的絆は、幼い頃の不適切な養育やドメスティックバイオレンス、さらにはカルトや非公然の人間関係など、さまざまな状況で発生します。特に、暴力を受けているパートナーにとっては加害者からの経済的な依存だけでなく、その関係性がもたらす心理的圧迫が影響しています。このような状況では、加害者によって操られた感情の中で、被害者は恐怖、麻痺感、悲しみといった複雑な感情が入り交じり、抜け出せなくなります。

外傷的絆の影響は加害者との関係が終わった後にも残り、被害者の自尊心を低下させ、うつ病や双極性障害のリスクを高めることが報告されています。加えて、虐待の連鎖が次世代に引き継がれる危惧もあります。被害者は、周囲の無理解や孤立感によって、さらに状況が悪化することが多いため、支援の重要性が高まります。

例えば、DV被害者が加害者と別れるまでには、平均して5回から8回の試行錯誤が必要とされます。このプロセスには周囲のサポートが不可欠です。外傷的絆を理解し、適切な支援を行えば、被害者が回復への道を歩む手助けとなります。

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