外国語学校 (旧制)

旧制外国語学校

この項目では、大正時代から昭和にかけて日本の旧制教育制度下に存在した、外国語の専門教育を目的とした高等教育機関である「旧制外国語学校」（後に「外事専門学校」や「語学専門学校」と改称）について述べます。これらは専門学校令に基づき設置された学校であり、明治初期に設立された同名の各種学校とは異なります。

概要

専門学校令が施行された当初、旧制専門学校として認められた外国語学校は、東京に設立された官立の東京外国語学校一校のみでした。しかしその後、大阪に官立の学校が追加され、さらに小倉（現・北九州市）と神戸には公立の学校が設けられました。また、私立学校としては天理外国語学校などが設立され、外国語教育を担う高等教育機関が増えていきました。

第二次世界大戦が激化するさなかの1944年、戦時体制への移行に伴い、多くの外国語学校は「外事専門学校」、略して「外専」へと名称を変更しました。戦後、これらの学校は学制改革を経て新制大学へと再編されます。官立の東京および大阪の学校は、現在の東京外国語大学および大阪大学外国語学部などの源流となり、公立の学校は現在の北九州市立大学や神戸市外国語大学へと受け継がれています。

歴史

初期状況

幕末から明治維新にかけて、日本各地には多くの外国語学校が設立されましたが、その大半は廃止されるか、旧制中学校などの別種の学校へと転換されました。高等教育機関としては、東京と大阪に官立の学校が残されましたが、東京外国語学校以外の2校は後の旧制高等学校へと改組されました。東京外国語学校も一時的に東京商業学校（現在の一橋大学の前身）に併合され、官立の外国語学校は一時的に姿を消しました。

旧制専門学校としての復活

1897年、東京商業学校の後身である高等商業学校の附属として再び外国語学校が設置され、1899年には東京外国語学校として独立を果たしました。これにより、官立の専門学校として外国語教育機関が復活しました。

大正時代に入り、特に第一次世界大戦による大戦景気を背景に、日本のアジア市場への進出が活発化しました。これに伴い、貿易や外交といった分野で活躍できる外国語能力を持つ人材の育成が急務となり、外国語学校の増設が求められるようになります。

こうした時代の要請を受けて、1920年代には新たな外国語学校が設立されました。1921年には官立の大阪外国語学校が開校。1927年には、私立としては初めて専門学校令に基づく外国語学校として天理外国語学校（現在の天理大学の一部）が設立されました。これらの学校は、単に語学を教えるだけでなく、外交、貿易、さらには布教といった海外での活動を担う実務者を養成することを目的としていました。旧制高等学校や帝国大学で一般的に学ばれた英語、フランス語、ドイツ語といった主要な西欧言語に加え、中国語、ロシア語、スペイン語、ポルトガル語、マレー語、ヒンドスタニー語、タミル語など、より多様で専門的な言語の教育に力を入れていた点が、これらの学校の大きな特徴でした。

外事専門学校への改称と新制大学への移行

第二次世界大戦中の1944年以降、多くの旧制外国語学校は、その名称を「外事専門学校」または「語学専門学校」に変更しました。この改称は、戦後しばらくの間も引き継がれました。戦局末期の1946年には、旧制専門学校としては比較的後期の設立となる公立の神戸市立外事専門学校と市立小倉外事専門学校が開校しています。

終戦後の1949年に実施された学制改革により、日本の高等教育システムは大きく再編されました。旧制の各種学校は廃止され、多くの専門学校は新制の4年制大学や短期大学に包括・統合されました。外事専門学校もその例外ではなく、その多くが新制大学の一部となり、旧制度下の学校としては1951年までにその歴史を終えました。

主要な旧制外国語学校

専門学校令に基づき設置された主な旧制外国語学校（外事専門学校・語学専門学校を含む）には、以下のような学校があります。

官立校

東京外国語学校（1899年設立、源流は1873年）
現在の東京外国語大学の母体です。当初は高等商業学校附属として再興され、後に独立しました。多様な言語学科を持ち、貿易・拓殖科なども設置されていました。1944年に東京外事専門学校と改称され、1949年に新制東京外国語大学に包括されました。
大阪外国語学校（1921年設立）
現在の大阪大学外国語学部の源流の一つです。中国語、モンゴル語、マレー語、インド諸語など、アジア言語を中心に多様な言語教育を行いました。1944年に大阪外事専門学校と改称され、1949年に新制大阪外国語大学に包括されました。

公立校

神戸市立外事専門学校（1946年設立）
現在の神戸市外国語大学の前身です。終戦直後に設立され、比較的短い期間で新制大学へ昇格しました。
市立小倉外事専門学校（1946年設立）
現在の北九州市立大学外国語学部の前身です。神戸と同様に終戦直後の設立で、短期間で新制大学へ移行しました。

私立校

天理外国語学校（1927年設立、源流は1925年）
現在の天理大学の一部です。私立として初めて専門学校令に準拠した外国語学校でした。朝鮮語部を初めて設置したことでも知られます。1944年に天理語学専門学校と改称され、天理女子語学専門学校との統合を経て、1949年に天理大学となりました。
東洋語学専門学校（1942年設立）
現在の熊本学園大学の前身の一つです。後に熊本語学専門学校と改称され、熊本短期大学、熊本商科大学を経て現在の名称となりました。
善隣外事専門学校（1944年設立）
現在の麗澤大学の前身の一つです。道徳科学専攻塾を源流とし、東亜専門学校を経て外事専門学校となりました。後に千葉外事専門学校と改称され、麗澤短期大学を経て現在の名称となりました。
善隣外事専門学校（1944年設立）
善隣協会専門学校、善隣高等商業学校を経て外事専門専門学校となりました。様々なアジア言語の学科を持っていましたが、1950年に廃止されました。
同志社外事専門学校（1944年設立）
現在の同志社大学の一部です。同志社専門学校の一部を統合して設置され、1949年に同志社大学の各学部に吸収されました。
南山外国語専門学校（1946年設立）
現在の南山大学の前身です。名古屋外国語専門学校と改称された後、1949年に南山大学となりました。
福岡外事専門学校（1947年設立）
現在の福岡大学の一部です。福岡外国語学園により設立され、福岡経済専門学校との併合を経て福岡商科大学（現・福岡大学）の一部となりました。
京都外国語学校（1947年設立）
現在の京都外国語大学の前身です。戦後に設立され、京都外国語短期大学を経て現在の名称となりました。
松山語学専門学校（1947年設立）
松山外国語短期大学に昇格しましたが、1960年に廃校となりました。

これらの旧制外国語学校は、当時の日本における高度な外国語教育と国際的な実務を担う人材育成において、重要な役割を果たしました。

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