外套 (プッチーニ)

『外套』（がいとう、Il tabarro）は、ジャコモ・プッチーニが作曲した全1幕のオペラです。舞台はパリのセーヌ河畔。荷物船の老船長ミケーレ、その若い妻ジョルジェッタ、そして船で働く沖仲仕ルイージを中心に、愛と嫉妬、そして殺人が描かれます。1918年12月14日、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で、三部作の最初の演目として初演されました。

作曲の経緯

プッチーニは1913年、パリでディディエ・ゴルドの舞台劇『外套』を観劇し、その衝撃的な内容に惹かれました。彼はこの劇をオペラ化しようと考え、すぐに台本作家に連絡を取ります。プッチーニは、この作品を単独ではなく、他の作品と組み合わせて上演したいという構想を持っていました。これが、後に「三部作」となるアイデアの始まりです。

しかし、台本作家の選定は難航しました。プッチーニと長年協力関係にあったルイージ・イッリカとは、意見の相違から作業が進みませんでした。次に、新進気鋭のジョヴァッキーノ・フォルツァーノに依頼しますが、彼はオリジナルの台本を希望し、断られてしまいます。最終的に、ジュゼッペ・アダーミが台本を担当することになり、彼はプッチーニの依頼に応え、約3週間で初稿を完成させました。

制作と登場人物

作曲は1915年10月に開始され、1916年11月25日に完成しました。登場人物は以下の通りです。

ミケーレ：セーヌ川の船長（バリトン）
ジョルジェッタ：ミケーレの妻（ソプラノ）
ルイージ：沖仲仕、ジョルジェッタと不倫関係にある（テノール）
イル・ティンカ：酒癖の悪い沖仲仕（テノール）
イル・タルパ：沖仲仕（バス）
ラ・フルゴラ：タルパの妻（メゾソプラノ）
* 流しの歌唄い（テノール）

演奏時間は約50分です。

あらすじ

舞台は1910年、パリのセーヌ河畔に浮かぶはしけの甲板上。夕暮れ時、船長のミケーレは、妻のジョルジェッタとの間に溝を感じています。ジョルジェッタは沖仲仕のルイージと密かに恋仲にあり、ミケーレとの関係は冷え切っています。

沖仲仕たちが仕事から戻ると、ジョルジェッタは皆に酒をすすめ、陽気な雰囲気になります。しかし、ルイージとジョルジェッタが親密に踊る姿を見て、ミケーレは不機嫌になります。その後、ルイージはミケーレに「船を下りたい」と申し出ますが、ミケーレはこれを拒否します。

ミケーレが船室へ去った後、ルイージとジョルジェッタは再会を約束します。ジョルジェッタがマッチの火を合図に、ルイージは船に乗り込みます。しかし、ミケーレは妻の浮気を疑い、恋敵を殺そうと決意します。合図の火を誤解したルイージは、ミケーレに捕まり絞殺されます。ミケーレは、死体を外套の下に隠し、戻ってきたジョルジェッタに、死体を晒します。ジョルジェッタは衝撃のあまり絶叫し、幕が下ります。

初演とその評価

プッチーニは『外套』の完成に満足し、自身の処女作と組み合わせて上演することを検討していました。しかし、理想のミケーレ役が見つからず、この計画は実現しませんでした。

『外套』は、最終的に三部作として1918年12月14日にニューヨークで初演されました。しかし、批評家からは『カヴァレリア・ルスティカーナ』や『道化師』の亜流という評価を受けました。イタリア初演でも同様に、ヴェリズモ・オペラが時代遅れと見なされていたため、好意的な評価は得られませんでした。

プッチーニの友人であった指揮者のアルトゥーロ・[[トスカニーニ]]は、この作品を「最低のグラン・ギニョール」と批判し、プッチーニを激怒させたというエピソードも残っています。

その後の上演

『外套』は、三部作としてだけでなく、他のオペラやバレエと組み合わせて上演されることも多い作品です。日本では、1938年に初演され、その後も何度か上演されています。

このオペラは、人間の愛憎と、それがもたらす悲劇を、プッチーニならではの美しい音楽で描いています。その劇的な展開と衝撃的な結末は、観る者に深い印象を与えるでしょう。

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