ルイージ・イッリカ

生涯

ルイージ・イッリカは、1857年5月9日にイタリアのピアチェンツァ近郊で生まれました。若い頃から放浪生活を送り、オスマン帝国軍との戦闘に参加したという逸話も残っています。また、決闘で右耳を負傷したため、写真撮影の際には顔の右側を隠すようにしていたそうです。

1879年頃にミラノに落ち着き、文壇に加わって詩人のジョズエ・カルドゥッチらと親交を深めました。劇作家としても才能を発揮し、1883年の処女作『ナルボニエ＝ラトゥール家の人々』や、1891年のコメディ『フェリースの遺産』で成功を収めました。

オペラ台本作家としての活動は、1889年の『シゲットの家来』から始まりました。1892年には、プッチーニの出世作となった『マノン・レスコー』の台本を提供し、協力関係を築きました。しかし、『マノン・レスコー』の台本は複数の作家が関わっており、イッリカは最終稿での貢献は少なかったにもかかわらず、手柄を横取りしたという説もあります。

1894年からは、出版業者リコルディの勧めにより、劇作家のジュゼッペ・ジャコーザと組み、プッチーニとの共同制作体制を築きました。イッリカは場面設定や時代考証を担当し、散文形式で会話を書き起こし、ジャコーザがそれを韻文にまとめるという役割分担でした。この3人の協力によって、『ラ・ボエーム』（1896年）、『トスカ』（1900年）、『蝶々夫人』（1904年）という三大傑作が誕生しました。しかし、1906年にジャコーザが亡くなると、プッチーニとイッリカの関係は悪化し、絶交状態となりました。

イッリカは、プッチーニ以外にも、カタラーニ、ジョルダーノ、マスカーニなど、多くの作曲家に台本を提供しました。その総数は35に及び、『ラ・ワリー』、『アンドレア・シェニエ』、『イリス』などは、現在でも世界各地の歌劇場で上演されています。

作風

イッリカの台本には、いくつかの革新的な特徴がありました。

まず、『アンドレア・シェニエ』の台本では、非常に詳細なト書きを入れ、それまで現場の舞台監督に任されていた演出に一定の秩序をもたらしました。また、伝統的な韻文の音節数にこだわらず、必要に応じて不均等な音節を用いることで、力強い詞句を生み出しました。このイッリカ独自の韻文は、共同制作者であるジャコーザから「イッリカ音節」と冗談交じりに呼ばれていました。

さらに、イッリカは優れた舞台感覚を持ち合わせていました。聴覚的なドラマに加えて、視覚的にも印象的な群衆シーンを多く描きました。その代表的な例として、『ラ・ボエーム』第2幕のカフェ・モミュスの場面、『アンドレア・シェニエ』第3幕の法廷の場面、『トスカ』第1幕のテ・デウムの場面などが挙げられ、これらの場面は後期ヴェリズモ・オペラの特徴的な舞台となっています。

イッリカは、オペラ台本作家として、その革新的な作風と優れた舞台感覚によって、オペラ史に大きな足跡を残しました。

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