多久茂澄

多久茂澄：波乱に満ちた生涯

多久茂澄は、江戸時代後期の肥前国佐賀藩士であり、多久鍋島家（後多久氏）の10代目当主です。その生涯は、若くして藩の要職に就きながらも、不祥事により失脚、そしてその後の復権と、波乱に満ちたものでした。

生い立ちと藩政への関与

文化11年（1814年）、多久茂澄は9代多久邑主・多久茂鄰の三男として誕生しました。当時、父・茂鄰は藩の要職である請役家老を務めていましたが、藩財政の悪化の責任を問われ隠居を命じられます。そのため、茂澄は若くして家督を相続することになりました。

幼い頃から聡明で才知に富んでいた茂澄は、文政9年（1826年）には藩主・鍋島斉直から参政を命じられ、わずか16歳で当役（請役家老）という要職に就きます。しかし、天保元年（1830年）に斉直が隠居し、斉正が藩主となると、茂澄は次第に藩政から遠ざけられていくことになります。

不祥事と失脚

天保6年（1835年）5月10日、佐賀城二の丸で火災が発生し、役所が多久屋敷に移されたことで、屋敷周辺の往来が頻繁になりました。このことがきっかけとなり、翌天保7年（1836年）、茂澄と隣接する深堀領主・鍋島茂長の嫡男・茂勲の正室であるお區（まち）との不義密通が発覚します。お區は、茂澄の正室お為や藩主・斉正の妹でもありました。この不祥事は、藩内に大きな衝撃を与え、茂澄は同年10月に職を解かれ、藩主・斉正から謹慎を命じられます。

本来ならば死罪となるところでしたが、斉正と先代藩主・斉直が協議した結果、12月20日に茂澄は知行を召し上げられ浪人となります。しかし、その翌日、嫡子・松千代（後の茂族）に改めて知行7000石が与えられました。この出来事は「多久の一夜浪人」と呼ばれています。

その後と死

浪人となった茂澄は、天保8年（1837年）に一睡と改名し、失意のうちに過ごします。そして、天保14年（1843年）1月6日、32歳という若さでこの世を去りました。菩提寺である円通寺に葬られています。没収されていた知行は、茂澄の死後、先祖の功績を理由に、同年3月に元に戻されました。

多久茂澄は、その若さで藩の要職を務め、才知を発揮した一方で、不祥事により失脚するという波乱に満ちた生涯を送りました。しかし、その後の復権は、彼の家系が佐賀藩において重要な役割を果たしていたことを示唆しています。彼の生涯は、江戸時代後期の武士の生き方の一つの側面を映し出していると言えるでしょう。

参考資料
小城郡教育会編『小城郡誌』 - 国立国会図書館デジタルコレクション
中野礼四郎編『鍋島直正公伝 第2編』 - 国立国会図書館デジタルコレクション

関連リンク
* 佐賀新聞LIVE＝多久物語＝　茂澄と佩川

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