鍋島斉直

鍋島斉直：財政難と改革、そしてフェートン号事件の影

鍋島斉直は、肥前佐賀藩の第9代藩主として、幕末期に激動の時代を生き抜いた人物です。父は第8代藩主・鍋島治茂、母は側室の福岡氏でした。幼名は祥太郎、初名は直懿といい、将軍・徳川家斉から偏諱を賜り、斉直と改名しています。正室は池田治道の娘、浄諦院であり、多くの側室にも恵まれました。

斉直が藩主の座を継いだ文化2年（1805年）当時、佐賀藩は1万5000貫もの借金を抱え、財政は破綻寸前でした。この危機的状況を打破するため、斉直は抜本的な藩政改革に着手します。

その改革の中心は、行政組織の簡素化による経費削減でした。具体的には、支藩である肥前鹿島藩の廃藩や、莫大な費用を要していた長崎警備の任務返上を計画しました。特に長崎警備の返上は、代々の藩主を悩ませてきた問題であり、斉直は年寄役の有田権之允に密命を与え、熊本藩への引き継ぎを画策します。

しかし、この密約は幕府に発覚し、有田は切腹という悲劇的な結末を迎えました。さらに、鹿島藩の廃藩も他の支藩からの反発に遭い、計画は頓挫します。

追い打ちをかけるように、文化5年（1808年）にはフェートン号事件が発生します。フランス革命後の混乱に乗じて、イギリス船フェートン号が長崎を襲撃し、オランダ商館員を拉致、長崎奉行を脅迫する暴挙に出ました。佐賀藩が長崎警備の兵員を減らしていたことが災いし、日本側はフェートン号に対抗することができず、幕府から責任を追及されます。家老数名が切腹し、斉直自身も100日の閉門処分を受けました。佐賀城下は正月にもかかわらず、歌舞音曲の禁止令が出され、静まり返ったといいます。

その後も、文政2年（1819年）の江戸藩邸焼失や、文政11年（1828年）の死者1万人を数える大規模な台風（シーボルト台風）による被害など、数々の困難に見舞われました。財政状況は悪化の一途を辿り、借金は13万両にまで膨れ上がります。

こうした状況の中、天保元年（1830年）、斉直は家督を十七男の斉正（直正）に譲り、隠居しました。しかし、隠居後も実権を握り続け、贅沢な私生活を送ったと伝えられています。天保10年（1839年）、60歳で亡くなりました。法名は巍松院殿桂翁道栄大居士です。

斉直の生涯は、財政再建を目指した改革と、フェートン号事件への関与、そして晩年の贅沢な生活という、対照的な側面を併せ持つものでした。彼の治世は、佐賀藩にとって大きな転換期であり、その功罪は現在でも議論の対象となっています。

系譜

斉直の子女は非常に多く、その数に驚く人もいるかもしれません。正室、側室を合わせ、男子だけでも29人、女子は20人以上にのぼります。その中には、後の佐賀藩10代藩主となる鍋島直正も含まれています。多くの子供たちは幼くして亡くなっていますが、生き残った者たちは、それぞれの人生を歩み、佐賀藩や日本の歴史に影響を与えました。

斉直の系譜を紐解くと、彼の多様な人間関係や、当時の社会構造を垣間見ることができるでしょう。多くの側室の存在は、当時の藩主の権力や、婚姻制度の一端を物語っています。

この系譜から、斉直の人生が、藩の存続をかけた政治的駆け引き、そして個人の感情や葛藤と、様々な要素が複雑に絡み合ったものであることがわかります。

まとめ

鍋島斉直は、困難な時代を生き抜いた佐賀藩の藩主でした。彼の改革は成功とは言い難い部分もありましたが、その試みは、後の佐賀藩の発展に少なからず影響を与えたことは間違いありません。フェートン号事件への関与は、彼の生涯に暗い影を落としましたが、同時に、幕末の国際情勢の厳しさを私たちに示しています。彼の生涯は、歴史の転換期に生きた一人の藩主のドラマであり、現代に生きる私たちにとって、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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