多富洞の戦い (1950年9月)

多富洞の戦い：朝鮮戦争における激戦

多富洞の戦い（たふどうのたたかい）は、1950年9月に朝鮮戦争中、アメリカ軍と朝鮮人民軍の間で繰り広げられた重要な戦闘です。この戦いは、大邱（テグ）を巡る激しい攻防戦であり、戦局を大きく左右しました。

戦闘の背景

1950年8月末、アメリカ軍第1騎兵師団は、韓国軍第1師団から防御を引き継ぎました。この時、アメリカ軍は、西から第5、第7、第8騎兵連隊を配置し、戦力を増強していました。一方、人民軍は、8月20日に第4次作戦を終え、新たな第5次作戦を準備していました。この作戦では、大邱を包囲し、国連軍を殲滅することを目的としていました。

特に、人民軍第2軍団の第3攻撃集団は、多富洞（タブドン）と孝令（ヒョリョン）正面を突破して大邱を占領する計画でした。

戦力

国連軍

第8軍
第1騎兵師団
第5騎兵連隊
第7騎兵連隊
第8騎兵連隊

人民軍

第2軍団
第1師団
第3師団
第13師団
第17機甲旅団

戦闘の経過

9月2日、アメリカ軍第1騎兵師団は、霊山（ヨンサン）を守備するアメリカ軍第2師団を支援するために攻撃を開始しました。その後、人民軍第13師団の作戦主任がアメリカ軍に投降し、同日夜に人民軍が総攻撃を開始するという情報がもたらされました。

人民軍は、夜間に攻撃を開始し、第5、第7、第8騎兵連隊を攻撃しました。第1騎兵師団は逆襲を試みましたが、人民軍の頑強な抵抗と浸透戦術により、各地で部隊が孤立する状況になりました。激しい混戦が続いた結果、第1騎兵師団は多富洞一帯での抵抗が困難になり、9月5日に後退を余儀なくされました。しかし、東明付近で人民軍を阻止し、防御線を再構築しました。

9月11日には、人民軍が314高地に浸透し、大邱の危機が高まりました。その後、アメリカ軍が反撃に出て、314高地を奪還、大邱北方の戦況は一時的に安定しました。また、韓国軍も架山山城を攻撃し、戦況を有利に展開させようとしました。

9月15日、仁川上陸作戦が開始され、第8軍も反撃を開始しました。しかし、悪天候により航空機や砲兵の支援が受けられず、攻撃はなかなか進展しませんでした。

9月17日、アメリカ軍は第7騎兵連隊を投入し、翌日にはB-29爆撃機による空爆も行われましたが、戦況は膠着状態にありました。しかし、9月18日、韓国軍第1師団が人民軍の退路を遮断したことで、戦局は好転し始めました。

9月20日には、アメリカ軍が倭館を奪還、203高地などを奪取し、戦況は大きく動きました。しかし、第8騎兵連隊は苦戦を強いられ、ゲイ師団長は連隊長を更迭する事態となりました。

最終的に、第7騎兵連隊が多富洞に進出し、第8騎兵連隊と連携したことで、多富洞一帯の人民軍は殲滅されました。9月21日には、人民軍第13師団の参謀長が投降し、翌22日には、アメリカ軍と韓国軍が多富洞北方の掃討作戦で連携しました。同日、第8軍は洛東江全域で戦況が有利になったと判断し、追撃を開始しました。

戦いの影響

多富洞の戦いは、朝鮮戦争における重要な転換点となりました。アメリカ軍と韓国軍の連携が強化され、人民軍の攻勢を食い止めることに成功しました。この戦いの勝利は、後の反撃作戦の足掛かりとなり、朝鮮戦争全体の流れを大きく変えることになったと言えます。

参考文献

田中恒夫『朝鮮戦争・多富洞の戦い 若き将兵たちの血戦』かや書房、1998年。ISBN 4-9061-2434-8。

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