多田加助

多田加助：苛政に抗した義民

多田加助は、寛永16年（1639年）に生まれ、貞享3年11月22日（1687年1月5日）に処刑された江戸時代の百姓です。彼は、1686年に信濃国松本藩で発生した百姓一揆「貞享騒動（加助騒動）」を主導した人物として知られています。別名、多田嘉助とも呼ばれ、一説には陽明学を学んでいたとも伝えられています。

貞享騒動

多田家は代々、安曇郡中萱村の庄屋を務める家柄でした。しかし、加助が百姓一揆を起こしたときには、庄屋の身分を剥奪されていました。当時、安曇野では数年にわたる不作が続き、農民たちは困窮していました。そのような状況下で、松本藩は年貢の徴収基準を1俵あたり2斗5升から3斗、さらに3斗5升へと引き上げました。これは周辺の藩が2斗5升で据え置いていたのと比較して、農民にとって非常に重い負担でした。

この過酷な年貢増徴に耐えかねた農民たちは、中萱村の熊野権現に集まり、密かに減税を求めることを決議しました。加助は、小穴善兵衛とともにこの動きを主導し、10月14日、5ヶ条からなる訴状を松本城下に提出しました。これに呼応して、数千もの農民が城の周りに集結し、中には狼藉を働く者もいました。当初、藩は訴えを一旦は受け入れましたが、1ヶ月後には撤回し、加助をはじめとする首謀者8名を磔刑、20名を獄門に処しました。

藩主の水野忠直は江戸に詰めていたため不在でしたが、早馬で事の次第を把握し、約束の反故と処刑を許可しました。加助は処刑されるまで訴えが聞き入れられたものと思い込んでいましたが、刑場の矢来の外に集まった領民たちから、訴えが反故にされたことを知らされます。役人から嘲笑された加助は「きっと怨みを晴らしてみせる」と叫び、「今後年貢は5分摺2斗5升だ」と絶叫しながら松本城天守閣を睨みつけて処刑されたといわれています。この時、天守が大きく傾いたという伝説も残っています。

加助らの遺体は、川手往還の新橋付近や善光寺街道沿いの出川刑場脇で梟首されました。しかし、加助の死後、松本藩の年貢は3斗まで引き下げられることとなりました。

義民としての顕彰

加助の死後、その行動は義民として語り継がれるようになりました。1725年に水野家が改易され、翌年戸田家が松本藩に入封したことが、義民顕彰のきっかけとなりました。小穴善兵衛の故地である楡の共同墓地に「貞享義民五十年忌経典二千部供養塔」が建立されました。

明治時代に入ると、自由民権運動の高まりとともに、地元出身の松沢求策が新聞で加助を民権家として取り上げました。その後、加助の物語は舞台化され、全国各地で上演されました。1916年には、半井桃水の新聞小説「義民加助」が朝日新聞に連載され、全国的に知られるようになりました。

現在、加助の墓は貞享義民社（長野県安曇野市三郷明盛）の隣にあります。貞享義民社は、多田家の敷地内にあった加助らを祀った祠が、騒動200年祭を機に現在の場所に移され、加助神社として改められたものです。同地は、塩尻峠の戦いで落城した「イヌイの城」の城址とされています。加助を祀る本尊は、水野家が屋敷内に祀るために作らせた加助坐像であり、後に水野家から加助神社に寄贈されました。

1960年には宗教法人「貞享義民社」となり、同年には多田加助旧宅跡が長野県文化財に指定されました。1986年には、テレビドラマ「義勇天を貫く」が放送されました。1992年には、貞享義民記念館が建設され、加助の功績を後世に伝える施設として活用されています。

関連人物・施設

多田北烏 - 子孫にあたる商業美術家。
貞享義民記念館
* 貞享義民社

多田加助は、自らの命を懸けて農民の権利を訴え続けた人物として、今もなお多くの人々に尊敬されています。

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