塩尻峠の戦い

塩尻峠の戦い

塩尻峠の戦いは、戦国時代の天文17年（1548年）に、信濃守護の小笠原長時と甲斐守護の武田晴信の間で行われた合戦です。この戦いは、武田氏の信濃侵攻における重要な転換点となりました。

合戦地

塩尻峠は現在の長野県塩尻市と岡谷市の境界に位置し、甲斐と信濃の国境に近い場所にあります。諏訪湖の北西に位置しています。従来の説では、この合戦は塩尻峠で行われたとされていましたが、近年の研究では、塩尻峠の南にある勝弦峠が実際の戦場であったとする説が有力となっています。

合戦までの経緯

天文10年（1541年）に父・武田信虎を追放して当主となった武田晴信は、父の時代から続く信濃侵攻を継続し、勢力を拡大していました。しかし、天文17年（1548年）2月、北信濃の村上義清に上田原の戦いで大敗を喫し、重臣の板垣信方が戦死、晴信自身も負傷しました。これにより、武田氏の信濃における勢力は大きな危機に瀕することになります。

上田原の戦いの後、武田氏の支配地域では動揺が広がり、村上義清は武田領に侵攻し、内山城を焼き討ちしました。この状況を見た小笠原長時は、武田氏が弱体化した好機と捉え、村上義清や安曇郡の仁科盛能と連携して諏訪に侵攻し、6月10日には諏訪下社を占領しました。

塩尻峠の戦い

7月10日、小笠原長時は、武田氏に与していた諏訪地方の勢力を寝返らせ、勢いに乗って上諏訪へと進軍しました。武田軍は諏訪郡代の板垣信方を失い、動揺していました。

この報を受けた武田晴信は、7月11日に甲府を出陣し、18日まで大井森に滞陣しました。この行動は、相手を油断させるための遅延戦術であったと考えられています。小笠原軍は、兵力的にも戦況でも優位に立っていましたが、寄せ集めの軍勢であり、結束力に欠けていました。小笠原軍では、長時の舅である仁科盛能が作戦方針を巡って長時と対立し、軍を率いて離脱しました。また、一部の武将は武田氏に内応したともされていますが、実際には小笠原氏と共に武田氏と戦い続けた武将もいました。

7月18日、武田晴信は上原城に入城し、翌日未明、密かに軍を移動させて塩尻峠にいた小笠原軍を奇襲しました。武田軍の遅延行動によって油断していた小笠原軍は、武具を解いて休憩していたり、まだ就寝中の兵も多く、武田軍の奇襲に対応することができませんでした。奇襲を受けた小笠原軍は総崩れとなり、およそ千人が戦死しました。小和田哲男は、小笠原軍は軍装を整える暇もなく敗れ去ったと述べています。

戦後

小笠原長時は命からがら居城の林城に逃走しました。この敗戦は小笠原氏にとって大きな痛手となりました。一方、武田晴信は上田原の敗戦をこの勝利で挽回し、9月6日には諏訪から佐久へ侵攻し、前山城など13の城を落としました。10月2日には、筑摩郡に村井城（小屋城）を築城し、小笠原氏を牽制しました。この敗戦により、小笠原氏は諏訪や伊那への軍事行動を二度と展開することができなくなりました。その後、天文19年（1550年）7月には、長時は武田晴信によって林城を追われることになります（林城の戦い）。

脚注

平山優『戦史ドキュメント 川中島の戦い 上』学習研究社、2002年。
小和田哲男『戦国合戦事典 – 応仁の乱から大坂夏の陣まで』PHP研究所、1996年。

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