多羅菩薩

多羅菩薩 (ターラー)

多羅菩薩（たらぼさつ、梵名：tārā）は、大乗仏教、特に密教において重要な女性尊格であり、観音菩薩の慈悲の涙から生まれたとされます。チベット仏教ではドルマ(sgrol ma)と呼ばれ、救済を司る仏母として広く信仰されています。

概要

多羅菩薩は、手に青い蓮華を持つ姿で表され、その優美な姿は多くの人々に安らぎを与えます。観音菩薩が衆生を救済しようとする深い悲しみから流した涙から生まれたという伝説は、彼女の慈悲深さを象徴しています。右目の涙から白ターラー、左目の涙から緑ターラーが生まれたとされ、それぞれが異なる役割と意味を持っています。

後期密教においては、過去仏である鼓声如来に帰依したナツォク・オ国の王女イェシェ・ダワが、自身の女性の身のままで衆生を利益することを誓願したことで「度母」と呼ばれるようになったという物語も存在します。

日本密教における多羅菩薩

日本密教では、多羅菩薩は胎蔵曼荼羅の蓮華部院に配置され、観音菩薩の一尊として崇められています。近年では、「多羅尊観音」として祀られることもあり、その霊験を求める人々の信仰を集めています。

チベット密教におけるターラー

チベット密教において、ターラーは特に重要な役割を果たしています。カダム派では、釈迦如来、観音菩薩、不動明王と共に「四本尊」の一つとして数えられています。また、仏母（ユム）として如来と同格に扱われ、地、水、火、風の四仏母の一尊として曼荼羅に頻繁に登場します。ゲルク派においては、息災、増益、敬愛の護摩法において本尊とされることがあります。

チベットの人類起源神話においては、観音菩薩が化身した猿とターラー菩薩が化身した鬼女の間に生まれた子孫がチベット民族であると語られています。

密教経典におけるターラーの成就法と真言

多羅菩薩に関する経典は数多く存在し、それぞれが異なる成就法（儀軌）や真言を伝えています。

金剛頂経多羅菩薩念誦法
チッタマニ・ターラー成就法

真言の例

チベット音: ཨོཾ་ཏཱ་རེ་ཏུཏྟཱ་རེ་ཏུ་རེ་སྭཱཧཱ། (oṃ tāre tuttāre ture svāhā)
中天音(日本真言宗): ノウボウ・オン・タレイ・トタレイトレイ・ソワカ

これらの真言は、多羅菩薩の慈悲に触れ、苦しみから解放されるための重要な手段とされています。

多羅菩薩は、その慈悲と智慧によって、私たちを迷いから救い、安寧へと導いてくれる存在として、これからも多くの人々に信仰され続けるでしょう。

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