夜の白い家

夜の白い家

フィンセント・ファン・ゴッホが1890年6月に描いた「夜の白い家」（フランス語: Maison blanche, la nuit.）は、夜空の下に佇む二階建ての家と、その右上にひときわ明るく輝く黄色い星が印象的な作品です。この絵は、ゴッホがパリ郊外のオーヴェル＝シュル＝オワーズに移って間もなく描かれ、彼自身も書簡でこの作品について触れています。

来歴

この絵は、1924年にドイツの実業家オットー・クレープスによって入手されたとされています。しかし、1930年代にナチスによる退廃芸術弾圧によって没収され、長らく行方不明となっていました。第二次世界大戦終結50周年の1995年、ロシアのエルミタージュ美術館が、この絵画を「戦利品絵画」の一つとして所蔵していることを発表し、現在に至るまで同美術館に展示されています。一説には、ナチスの収奪を逃れるためにクレープスがドイツ東部の家屋に隠匿していたものを、1947年にソ連当局が発見し押収したとも言われています。

絵画の中の星

アメリカのテキサス州立大学の研究チームが、天文学、美術史など異分野の研究者で構成され、この絵に描かれた星の謎を解き明かしました。研究の結果、この絵は1890年6月16日の午後7時から8時頃の風景を描いたものであることが判明しました。チームは、現地を訪れて絵に描かれた「白い家」を発見し、絵と同じ角度から見た当時の夜空をコンピューターで再現しました。すると、絵に描かれた星が、6月16日の金星の位置と一致したのです。当時の気象台の記録によると、前後数日間は雷雨や曇り空が続いていましたが、この日は一日中晴れており、新月近い暗い夜空に、日没後約2時間、宵の明星が西の空でマイナス3.9等級の明るさで輝いていたと考えられます。

研究チームは、絵の中の人や建物の影から、これらが日没前後の午後7時頃のものであり、金星は日没後の午後8時の位置にあると推定しました。そして、ゴッホがこの絵を下から上へと描き進めたのだろうと結論付けました。

この研究により、ゴッホの絵は一見抽象的に見えながらも、実際には正確な観察に基づいていることが証明されました。ゴッホの他の代表作である『星月夜』でも、月と並んで明けの明星が描かれていることが書簡から明らかになっています。ただし、ゴッホは絵画のテーマに合わせて、意図的に太陽の位置を変えていることもあります。例えば、アルル時代に描かれた作品では、街並みのシルエットの背後に太陽がある構図にするために、真北にある太陽を描いています。

この絵は数時間以内に現場で描き上げられたと考えられており、ゴッホの速筆が表れていると言えるでしょう。書簡やゴーギャンの評価からも、ゴッホが短時間で多くの作品を制作していたことが伺えます。

脚注

* テキサス州立大学のドナルド・オルソンの研究に関するプレスリリース

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