夢みる葡萄

『夢みる葡萄 〜本を読む女〜』 は、2003年9月29日から12月15日まで、NHK総合テレビの「月曜ドラマシリーズ」枠で放送された連続テレビドラマです。全11回で構成され、作家である林真理子が、自身の母親をモデルに執筆した小説『本を読む女』を基に制作されました。

物語の中心となるのは、読書をこよなく愛する文学少女、小川万亀（まき）です。ドラマは、昭和の幕開けから第二次世界大戦の混沌、そして戦後の復興期という激動の時代を背景に、本を読むことを精神的な支えとして生き抜いた一人の女性の波乱に満ちた半生を丁寧に描き出します。主な舞台となるのは、主人公の生まれ育った山梨、学生時代を過ごす東京、そして教師として新たな生活を始める福島県相馬地方です。なお、原作小説の精神を受け継ぎつつも、テレビドラマ化にあたっては、一部の設定やストーリーにアレンジが加えられ、脚色された場面も含まれています。

本作は、単に主人公・万亀という一個人の生涯を追うだけでなく、昭和という時代における日本の家族の姿も色濃く描いています。万亀の大家族（祖父母、両親、兄、そして個性豊かな三人の姉たち）が織りなす人間模様や、親友、幼馴染といった周囲の人々との温かい交流や時にはぶつかり合いといった青春群像劇としての側面も持ち合わせています。

また、昭和史を物語の重要な背景として位置づけている点も特筆すべきです。当時の世相や文化、人々の暮らしぶりを反映したエピソードが随所に盛り込まれており、視聴者はドラマを通して、激動期の日本の空気を感じ取ることができます。例えば、当時流行した文学作品や、多くの子供たちに親しまれた児童文学雑誌『赤い鳥』、人気を博した映画『天国に結ぶ恋』、そしてベルリンオリンピック、二・二六事件、特高警察の存在など、具体的な歴史的要素が物語に織り交ぜられ、リアリティと深みを与えています。

主人公の小川万亀は、菊川怜が演じ、少女時代は斉藤奈々が務めました。万亀を取り巻く主要な登場人物として、田部末吉役を山田純大（少年時代は三浦春馬）、仲川艶子役を原沙知絵が演じたほか、的場浩司、田村亮、涼風真世、星野有香、三浦理恵子、上原さくら、丹波哲郎、赤木春恵といったベテランから若手まで多彩な俳優陣が出演し、物語に奥行きを与えています。彼らが演じる万亀の家族や友人、そして様々な立場の人物たちが、それぞれの人生を懸命に生きる姿が感動を呼びます。

制作スタッフは、脚本を鈴木聡、音楽を渡辺俊幸が担当しました。演出は、大友啓史、岡田健、松浦善之助が手掛け、制作統括は浅野加寿子が務めました。山梨県をはじめ、千葉県や茨城県など、ゆかりの地での撮影協力も得て、当時の情景がリアルに再現されています。

放送後、本作はその丁寧な時代考証に基づいた描写と、人間味あふれるドラマが高く評価されました。好評を受けて、2005年には「NHKハイビジョン・ドラマ特選」としてBSハイビジョンで、そして2006年にはNHK総合テレビの「NHK名作アワー」にて再放送されています。

『夢みる葡萄 〜本を読む女〜』は、激しい時代のうねりの中で、本を心の糧とし、家族や人々との絆を大切にしながら強く生き抜いた一人の女性の成長と人生を描いた、心温まる感動のヒューマンドラマと言えるでしょう。

もう一度検索