夢魔

夢魔（むま）についての詳細

夢魔（インクブス）は、古代ローマ神話やキリスト教に登場する下級の悪魔であり、特に人間の夢の中に現れ、性的な行為を行う存在です。また、この夢魔は「淫魔」とも呼ばれています。一般的には、夢魔は人間型の形を取り、睡眠中の人間に接触するとされていますが、その姿はしばしば誘惑的であり、対象の理想の異性像に変身することもあります。

インキュバスとサキュバス

インキュバスは男性型の夢魔で、女性を襲い、性交を強要して精液を注ぎ込むことで妊娠させる存在です。同様に、サキュバス（女性型の夢魔）は男性を誘惑し、同じように精液を奪います。この二つの存在は、ラテン語の「のしかかる（incubo）」や「不倫の相手（succuba）」に由来し、古くから故に悪魔とみなされてきました。

アウグスティヌスの著作『神の国』でも言及されているように、インキュバスはしばしば女性に襲い掛かり、その欲望を満たす存在として認識されています。彼らはしばしば、下半身を露出した姿で現れ、誘惑を拒むのが極めて困難であるため、被害者はその誘惑に抗うことができません。

夢魔の形態と行動

夢魔は、人間の形を取るだけでなく、蝙蝠の姿になって寝室に侵入することもあると伝えられます。彼らの見た目があまりにも魅力的であったため、彼らに襲われた人々は、夢の中での快楽に沈み込んでしまうことが多かったとされます。

また、インキュバスとサキュバスはしばしば同一の存在として語られることもあり、彼ら自身は生殖能力を持たず、異性から奪った精液を用いて人間を妊娠させるという考え方もあります。興味深いことに、特定の地域では、悪魔避けのために牛乳を枕元に置く習慣が存在し、これはサキュバスがそれを精液と間違えて持ち去るという言い伝えから生まれたものです。

インキュバスとサキュバスに関する議論

ルネサンス時代になると、「インキュバスが本当に女性を妊娠させるのか」といった真剣な議論が交わされました。この時期、性に対する解放感が高まり、都市部では父親不明の子を抱える女性が多く見られました。そのため、望まぬ妊娠が起こった際に、「インキュバスの仕業だ」として不倫を正当化するための言い訳として利用されました。

そして、サキュバスに襲われた男性は、俗に言う夢精をしたとの信念が広まり、それもまたサキュバスの仕業と考えられていました。

その他の夢魔の存在

夢魔は単なるインキュバスやサキュバスだけではなく、他の文化にも類似の存在が見受けられます。例えば、ヨーロッパには「アルプ」や「エムプーサ」、「リリス」や「リリン」といった夢魔のような存在が伝わっています。また、南ドイツやオーストリアには「ドルード」と称される夢魔の伝承があり、特定の儀式によってその存在を排除しようとする風習があることも知られています。これらの夢魔に関する伝説や習慣は、多様文化がどのように性や夢に対する考え方を形作ってきたかを示しています。

このように、夢魔は古代から現代にかけて、幅広い文化において語られる興味深い存在であり、夢や性に対する人々の感覚や理解が今もなお継承されています。

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