大久保藤十郎

大久保藤十郎は、天正5年（1577年）に大久保長安の嫡男として誕生しました。諱は不明です。彼は武士としての道を進む一方、茶の湯にも深く傾倒し、古田織部から茶の湯の皆伝を受けるほどの腕前を持っていました。父・長安は金製、銀製の豪華な台子飾り道具一式を所持していたと伝えられています。

関ヶ原の戦いの後、藤十郎は奈良奉行に任じられ、その行政手腕を発揮しました。また、慶長15年（1610年）には稲富一夢理斎（祐直）より稲富流砲術の皆伝を受けるなど、武芸にも秀でていました。

しかし、慶長18年（1613年）に、父・長安が金山の統括権を利用して不正に財を蓄えていたことが発覚します。さらに、藤十郎は、家康から命じられた父の不正蓄財調査を、若輩であることを理由に拒否しました。このことが家康の怒りを買い、藤十郎は勘当処分となります。

藤十郎は、小田原藩初代藩主・大久保忠隣のもとに預けられ、同年7月9日、弟の外記（藤二郎）、青山成国（権之助）、雲十郎、内膳、長清（右京）らと共に切腹を命じられました。享年37歳でした。この事件により、大久保長安家は断絶することとなりました（大久保長安事件）。

また、藤十郎の正室の父である石川康長も連座し、改易のうえ豊後国佐伯に配流されました。さらに、康長の弟である康勝、康次も後に改易処分を受けています。このように、大久保長安事件は多くの人々の運命を狂わせる大事件となりました。

藤十郎は、武士として、また茶人としての才能を持ちながら、父の不正事件に巻き込まれ、非業の死を遂げた人物として、歴史に名を残しています。茶人としての側面は、彼が単なる武士ではなく、文化的な素養も持ち合わせていたことを物語っています。


参考文献

末宗廣編『茶人系譜』河原書店、1977年

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