大和天神山古墳

大和天神山古墳：古代日本の謎を秘めた前方後円墳

大和天神山古墳は、奈良県天理市柳本町に位置する前方後円墳です。その存在は、1960年に行われた県道拡張工事によって明らかになりました。工事による後円部の一部損壊を機に緊急発掘調査が行われ、その結果、数多くの貴重な考古資料が発見されました。現在、大和天神山古墳は奈良県指定史跡として保護されています。

古墳の規模と形状

大和天神山古墳は、台地上に築かれた全長113メートルの前方後円墳です。前方部は比較的短く、わずかに撥形に開いています。後円部の直径を前方部の開きが超えることはありません。葺石や埴輪は確認されておらず、段築や周濠も不明瞭であることから、そもそも存在しなかった可能性も指摘されています。

謎めいた埋葬施設と副葬品

後円部中央には、長さ6.1メートルの竪穴式石室が発見されました。石室内部には、木櫃とみられる木製容器が置かれ、その中には大量の水銀朱と多数の銅鏡が納められていました。水銀朱は約41キログラムにも及び、3キログラムの水銀朱を使用した岡山県倉敷市の楯築古墳との関連性が示唆されています。このことは、大和天神山古墳と瀬戸内海東部との交流があった可能性を示しています。

木櫃は、長さ2.6メートル、幅75センチメートルの巨木をくり抜いたものではなく、3枚の板を組み合わせたものでした。底面は水平ではなく、両端がカーブして上がっているのが特徴です。木櫃の中には、20面の銅鏡が長方形に並べられており、前期古墳に見られるような中央に1面だけ置く配置とは異なっていました。これは、古墳時代の社会階層化が進み、青銅鏡が重要な地位を象徴するようになってきたことを反映していると考えられます。

木櫃の外側からも銅鏡3面が出土し、合計23面の銅鏡が発見されました。鏡の種類は多様で、「尚方作竟」銘鏡や「長宜子孫」銘鏡など、様々な銘文や文様を持つ銅鏡が含まれています。これらは、当時の銅鏡製作技術や文化交流を解明する上で重要な資料となります。

銅鏡以外にも、鉄製の刀3点、剣4点、鉄鏃5点などの武器類も出土しました。刀は片刃ではなく、切っ先から20センチほど両刃になっている珍しい形状をしています。剣の一部は絹布に巻かれており、当時の埋葬儀礼の一端を示しています。前方部からは、二重口縁壺（布留Ⅰ式）も出土しています。

被葬者と築造時期

木櫃は丹念に調査されましたが、遺骸は発見されませんでした。築造時期については、周辺古墳との関係や出土した銅鏡の様式から、3世紀末から4世紀前半、または4世紀後半と推定されています。被葬者の身分は明らかになっていませんが、出土した副葬品の豪華さから、有力な人物であった可能性が高いと推測されています。

文化財としての価値

大和天神山古墳から出土した銅鏡23面、鉄製品16点、土器片などは、国指定重要文化財に指定されています。また、出土した木棺も奈良県指定有形文化財に指定され、大和天神山古墳自身も奈良県指定史跡に指定されています。これらの貴重な考古資料は、現在、奈良国立博物館や奈良県立橿原考古学研究所附属博物館などで保管・展示され、古代日本の歴史研究に大きく貢献しています。

まとめ

大和天神山古墳は、その規模、形状、そして豊富な副葬品から、古代日本の社会構造や文化交流を知る上で非常に重要な遺跡です。今後の研究によって、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されます。

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