大坪流

大坪流の歴史と特徴

大坪流（おおつぼりゅう）は、室町時代に大坪慶秀（大坪式部大輔広秀、剃髪後は道禅）が創始したとされる日本の古典馬術の流派です。この流派は、小笠原流、八条流、内藤流と並んで古流の一つに数えられ、特に足利将軍家の関係者に対して深い影響を与えました。大坪流の起源に関しては諸説ありますが、慶秀は14世紀後半から15世紀前半に活動していたと考えられています。

慶秀は、伝説によると将軍足利義満や義持に仕えたとされるものの、実際には足利義教や義勝の時代に活躍したとする研究も存在します。そのため、彼の生涯や業績に関する詳細は不明ですが、彼が創設した大坪流は、当時の馬術界に重要な足跡を残しました。慶秀は、古来から存在する馬術流派である小笠原流を小笠原政長から学びました。慶秀はこの流派を尊重し、自己の馬術を磨くとともに、後世に伝える重要な教えを築き上げました。

慶秀が主張した「古より馬術に達する者多きも、道禅の如き未だ之を聞かず、古今独歩と謂うべし」という言葉からも、彼の独自性や深淵さが伺えます。また、中でも印象に残るのは「鞍上に人なく、鞍下に馬なし、正に絶妙の至境」との言葉であり、これは人馬一体の理想を訴えたものです。さらに、彼は「己を正しうして馬を咎めず」とも述べており、この教えは現代の馬術にも重要な指針であるとされています。

慶秀の実績は、義満から命じられて桜を求めて吉野山へ急ぎ、往復26里を短時間で駆け抜けるというエピソードにも表れています。彼の馬術と精神性は、時代を超えて多くの人々に影響を与え続けています。また、彼が開発した鞍の製法は伊勢流に引き継がれ、特異な技術として多くの馬術流派に影響を与えています。

大坪流には、3代目斎藤国忠（さいとう くにただ）が義政の指南役として貢献し、4代目の斎藤好玄（- よしはる）は義晴の師範となるなど、次第に流派が発展していきました。好玄の指導のもと、大坪流は全国へと広まり、数多くの分派や支流が生まれていきます。特に荒木流の創始者・荒木元清も好玄から馬術を学び、新たな流派を形成しました。

大坪流は後に武田流の金子有鄰から「大坪流は馬術専一であり、馬上武芸を深く扱うことを避けている」と評されるなど、他の流派に比べ特異な立ち位置を持っています。また、大坪本流と呼ばれる別の流派は、斎藤主税定易によって創立され、彼は「五馭の法」を編纂して名声を得ました。

さらに、大坪新流が各地で創設される中で、土佐藩士・大坪重則を祖とする流派や、会津藩士・小原俊周を祖とする流派などが続々と生まれました。これにより、大坪流の影響は広範囲にわたるものとなりました。大坪流の伝承は、馬術の技術や精神性を現代にも引き継いでおり、今なお多くの人々に親しまれています。

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