大妻コタカ

大妻コタカ（1884年 6月21日 - 1970年 1月3日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の教育者であり、大妻学院の創立者として知られています。広島県世羅郡甲山町（現在の世羅町）に生まれ、その功績から「日本における女子教育の草分け」とも称されています。世羅町名誉町民。

生涯

コタカは、6月の農繁期に6人兄弟の末っ子として生まれたため、「忙しい時に『困った子』」が名前の由来となりました。出生届の遅れから、11月20日が入籍日となり、生前は「年に2回の誕生日がある」と話していたそうです。現在、この11月20日は大妻学院の学校記念日となっています。幼少期に両親を亡くし、苦労を重ねながらも学問への志を抱き続けました。

広島県立高等小学校（現：広島皆実高校）を卒業後、当初は物理学と数学を志すも、周囲の反対を受け、手芸裁縫を学ぶために上京。和洋裁縫女学校（現：和洋女子大学）で裁縫技術を習得し、その後、小学校教員伝習所や女子師範学校で学び、小学校正教員免許を取得しました。

1907年、鎌倉尋常高等小学校（現：鎌倉市立第一小学校）の訓導となります。同年、宮内省御陵係の大妻良馬と結婚し、大妻姓となりました。夫の仕事の関係で宮家の中にある家に移り住んだことがきっかけとなり、1908年、自宅で縫製・手芸の家塾を開設。これが大妻学院の原点となります。

第一次世界大戦後の好景気と、女性の就学熱の高まりを受け、1916年に「私立大妻技芸伝習所」が認可。その後、「私立大妻技芸学校」へと改称し、女子中等教育機関として発展していきます。1917年には「恥を知れ」を校訓に定め、人格教育にも力を注ぎました。1919年には、私立大妻実科高等女学校を併設し、教育の幅を広げました。

コタカの教育は、戦前の良妻賢母教育の代表的なものとされ、実用的な知識や技能を身につけさせることに重点を置きました。五尺帯や半反でできる服、ツーピースの着物、風呂敷を三角にした戦時袋など、創意工夫を凝らしたアイデアは評判を呼びました。1927年から1932年にかけては、和服の裁ち方や縫い方を分かりやすく解説した書籍を次々と出版し、当時としては驚異的なベストセラーを記録しました。

1929年には「財団法人大妻学院」を設立し、理事長に就任。同年、夫が急逝するという不幸に見舞われましたが、学校経営に情熱を注ぎ込みました。1942年には大妻女子専門学校の設置が認可され、高等教育機関としての地位を確立しました。

しかし、1945年の東京大空襲で校舎が焼失。さらに、1947年には、戦時中に国粋主義的な婦人団体の幹部として活動していたことが問題視され、教職追放令により学校を追われるという苦難も経験しました。1951年に追放解除となり、再び大妻学院の理事長・学長・校長として復帰。学院の再建に尽力しました。

1954年に藍綬褒章、1964年には勲三等宝冠章を受章。1970年、東京都千代田区三番町の自宅で85歳で逝去。従四位勲二等瑞宝章が追贈されました。墓所は多磨霊園にあります。

2002年には、出身地である世羅町から名誉町民賞が授与されました。大妻女子大学は、世羅町との連携を深めており、地域おこしにも貢献しています。

教育方針と著書

大妻コタカは、生涯にわたり女子教育に尽力し、和裁を中心とした良妻賢母の育成を教育方針として掲げました。家事評論家としても活躍し、雑誌への寄稿や、文部省認定の教科書『現代裁縫全書』『模範裁縫教科書』『新選裁縫教科書』など、裁縫や手芸に関する多くの著書を執筆しました。

主な著書

『礼儀作法』(1924年)
『最新家庭向洗濯と汚点ぬきの仕方』(1925年)
『婦人毎日の心得』(1926年)
『最新實用家事全書』(1937年)
『家庭洋裁入門講座』(1949年)
『ごもくめし』(1961年)
『和裁講座図解説明初歩より奥義まで』(1965年)
『新しい和裁教室基礎から大裁ち仕立て方まで』(1968年)
* 『新しい和裁全書仕立て方から和装の知識』(1975年)

生家

コタカの生家は、三川ダム建設のため水没することになり、ダム湖畔に移築され保存展示されています。敷地内には、大妻女子大学の同窓会によって建立された銅像があります。

大妻コタカは、困難な時代を生き抜きながら、女子教育の発展に尽くした偉大な教育者として、その名は永く記憶されることでしょう。

もう一度検索