大戸洋儀

大戸 洋儀

生涯と功績

1942年にこの世に生を受け、2025年3月にその生涯を終えた大戸洋儀（おおと よしなり）氏は、アマチュア野球界において選手、そして指導者として顕著な足跡を残し、引退後は実業界でも活躍した人物です。

岩手県立一戸高等学校に進学し、当初は投手を務めました。高校時代には、野球部の一員として甲子園出場を目指し、1959年の秋季東北大会県予選では決勝まで駒を進めますが、惜しくも盛岡工業高校に敗れました。翌1960年の夏の甲子園県予選でも準決勝に進出しましたが、宮古高校との緊迫した試合は延長13回にも及ぶ熱戦の末、サヨナラ負けを喫し、夢の甲子園出場は叶いませんでした。

高校卒業後、大戸氏は慶應義塾大学文学部に進学。大学では、それまでの投手から外野手へとポジションを転向します。この転向が功を奏し、東京六大学野球リーグの舞台で主力選手として活躍。在学中、慶應義塾大学野球部は3度のリーグ優勝を達成しました。個人の活躍も目覚ましく、1964年春季リーグでは外野手部門でベストナインに選ばれるなど、高い評価を得ました。大学時代の同期には、後にプロ野球で活躍する渡辺泰輔氏や佐藤元彦氏、そして井石礼司氏といった名選手たちがいました。

大学を卒業すると、鐘紡淀川へと入社し、引き続き社会人野球の世界でプレーを続けます。1965年、日本のプロ野球に新たな歴史を刻む最初のドラフト会議が開催されました。大戸氏は、この年のドラフト会議で東京オリオンズ（現在の千葉ロッテマリーンズ）から12位で指名を受けますが、プロの道には進まず、アマチュア野球でのキャリアを選択しました。所属していた全鐘紡野球部が休部となった後には、旭化成大阪へ移籍し、現役生活を続けました。

現役を退いた後、大戸氏は指導者としての道を歩み始めます。1972年から1975年までの期間、母校である慶應義塾大学野球部の監督を務めました。監督就任初年度の1972年には、エースとしてチームを牽引した萩野友康氏らを擁し、東京六大学野球リーグで春秋連覇という素晴らしい成績を収めました。また、監督在任中には、後に『怪物』として球史に名を刻む江川卓氏が慶應義塾大学を受験した時期と重なります。当時の慶應義塾大学野球部捕手であった中尾孝義氏の証言によれば、大戸氏が勤務していた旭化成の都内研修施設にて、秋頃から毎週末にわたり江川氏のための勉強会が行われていたとされており、その受験に関わるエピソードも残されています。慶應義塾大学の監督と同時期にあたる1972年には、第1回日米大学野球選手権大会において日本代表チームのコーチも務めるなど、アマチュア野球の発展にも貢献しました。

野球界を離れた後は、実業界へと転身。旭化成グループの一員である中日本旭化成建材株式会社において、代表取締役の要職を務めるなど、企業経営の分野でも手腕を発揮しました。選手、監督、そして実業家として、多方面でその能力を発揮した波乱に富んだ生涯でした。

関連項目

岩手県出身の人物一覧
慶應義塾大学の人物一覧

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